「メタファー」の通じない世代

「今の子達は、スマホとかすぐに覚えちゃってすごいわね」という声を時々聞きます。でも、あれは、決して子どもがすごいんではなくて、スマートフォンやタブレット端末の側がすごいだけだと思うのです。

操作画面が直感的にデザインされていて、指先だけで操作できるあの簡単さは、実はそれまでのPCや携帯電話(ガラケー)が捨てられなかったものを思い切って相当削ぎ落とすことによって、実現されました。

メタファーって?

デザインに、メタファーという考え方があります。例えば、PCの操作は机の上(デスクトップ)とか、書類箱(フォルダ)とか、「実在の道具」を想起させるようにデザインされて機能しています。そうすることで、ユーザーが操作性を理解しやすくなるからです。

メタファーを生かす、というのはデザインをするときに重視するポイントのひとつですが、実在のものを「再現」するのとは違います。「バーチャルリアル」ではありません。

お絵描きソフト/アプリで、描画の線種を選ぶのに鉛筆や筆のメタファーが使われたり、色を選ぶのにパレットやクレヨンセットのメタファーが使われたり、描画エリアにスケッチブックのメタファーが使われたりするのが、わかりやすい例でしょう。

メタファーのない世代

iPhoneはメタファーを解体し「オレ様ルール」を作った

iPhoneが出た時にすごかったのは、この従来の「メタファーを生かしたデザイン」を、かなりの部分捨て去ったことだと思うのです。

目次→階層式メニューとか、机の上→デスクトップとか、書類棚→フォルダとか、そういうものはなくなりました。一方で、分厚い説明書無しに、自分(iPhone)の操作自体に、新しいルールを設けてしまいました。

機器の下部のボタンをおしたらどんな時でもとりあえず最初の画面ね、とか、画面上部/下部からスワイプしたら必ずこれが出るよ、とか、横方向にスワイプすると次の画面に行けることが多いよ、とか……。

ある意味乱暴に、ものすごい自信を持って、「オレ様ルール」を創出してしまったのです。メタファーを拠り所にせず、新たな操作ルールを作り出して、ユーザーを自分(iPhone)の側に合わせさせてしまいました。

年上世代は、メタファーてんこ盛りに慣れている

年上世代は、大人になってからパソコンが世の中に出現して、徐々にそのメタファー満載感覚に慣れてきました。

そして携帯電話が出現。旧来の携帯電話(ガラケー)は、階層式メニューや「アドレス帳」という呼び方など、小さな画面にパソコン的メタファーをそのまま引き継ぎ、本体の沢山のボタンは複数の機能を持ちました。

この世代がガラケーを好みスマトーフォンになかなか移行できないのはこのPC的なメタファーに親和性が高いからなのではないかと思うのです。

どんなに直感的でも、メタファーが解体されたスマートフォンは、かえって拠り所がなくて不安に感じるのでしょう。

最初からメタファーがなくていい世代の子どもたち

一方、生まれた時からスマートフォンやタブレット端末がある今の子ども達は、どうでしょう。彼らは、現物メタファー満載のパソコンより先に、タブレットやスマートフォンを触っています。

スマートフォンやタブレットの操作ルールがスタートになっているので、PCの画面や駅の広告ディスプレイ、テレビの画面をタップしたりフリックして動かそうとするのは、当然です。

また、発達段階のごく幼いうちに機器に触れるので、アプリデザインにメタファーが生かされていたとしても、そのデザインの元になった「現物」を知らないうちに、メタファーの方に触れている場合もあります。

例えば、本物の筆と絵の具やクレヨンや鉛筆を見たこともない、違いが実感としてわからない年齢のうちに、お絵描きアプリで絵を描いているかもしれません。メタファーが役に立たない/むしろ邪魔になる逆転状態もありうるわけです。

「リアルなものを想起できるように、アプリ上でなるべく再現してあげた方がいい世代」は確かにいました。でも、今はもう、確実にスタートラインが変わってきています。

リアルはリアル、アプリはアプリ

もう、これからのユーザーは、リアルにやっていたことをタブレット上に置き換えるだけでいい世代ではありません。

この点を、使うことを見守る親や先生が理解しておくことは、実は大切だと思います。

子ども向けのアプリで、手触り感があったり、リアルなテイストだったりする方がよさそうなイメージがあるかもしれません。でも、選ぶべき基準はそこではないでしょう。

リアルっぽいのがいいアプリだというわけでも、リアルっぽくないとダメなんてこともありません。

改めて、住み分けを

リアルなものは、「リアルっぽいアプリ」でやるよりも、リアルに体験した方がいいに決まっています。

例えば、絵の具と水の混ぜ具合と筆の使い方なんて、触ってみなければわからない。そのリアルを知る前の子どもが「リアルっぽいアプリ」を使うメリットは全然無い、と思います。

逆に、リアルでもできるし十分経験したけれど、やっぱりアプリでやった方が便利なことならばアプリで省力化するのは、選択肢のひとつです。

また、リアルなやり方では、困難さがあって実現できない人が代替手段として使うのは、とても積極的で選択的ないい使い方だと思います。

作り手も変化している

デザイナーも既に、スマートフォンのものはスマートフォン的ルールからスタートしてものづくりをしています。

例えばスマートフォンアプリのデザインは、iPhoneもAndroidもそれぞれが結構厳密なデザインルールを設けています。それを無視してデザインして「オレ様ルール」に混乱をもたらしてはいけないからです。それが、全体の「使いやすさ」を保つことにつながります。

そういうPC時代とは違うルールの前提に加えて、果たして、今の子どもたちに必要な/通用する、メタファーなのか、そもそも必要ないかもしれない、というところを視野にいれてデザインをする必要があります。

子ども向けだからと、ごてごてにメタファー満載にする必要が果たしてあるのかどうか……、むしろ必要ないかもしれない……、これからの子ども向けアプリのデザインは、そういう視点も持ってよく考える必要があるな、と改めて思うところです。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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1件の返信

  1. 2016-01-25

    […] 以前、『「メタファー」の通じない世代』で触れた通り、本物を触る/知る前にメタファーに触れてしまうという逆点現象が、今の子どもたちには益々増えています。 […]

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