自由度の高さを前向きにとらえる!〜新学習指導要領案でのプログラミングの位置付けを検証

前回は新学習指導要領の改訂ポイントについて見ていきましたが、今回は新学習指導要領上でのプログラミング教育について見ていきます。まず、小学校教育でのプログラミング教育というのがどういう位置付けなのかを概観してから、新学習指導要領案ので実際どう盛り込まれたのかを確認します。

「教育の情報化」の中でのプログラミング教育

プログラミング教育に単独で注目するのではなく、教育の情報化という流れの中で捉えることが大きな枠組みとしては大切です。
教育の情報化では「情報活用能力の育成」として次の3つの柱を持っています。

 A.情報活用の実践力
 B.情報の科学的な理解
 C.情報社会に参画する態度

プログラミング教育はこのうちのB「情報の科学的な理解」にはまるものとして捉えることができますが、Bももともとプログラミング教育だけを想定して考えられた柱ではありません。バランス良くこれら3つの要素を育てていくことが大切だと言えます。

「教育の情報化が目指すもの」という資料がわかりやすいので引用します。

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いろいろな資料に組み込まれているようですが、ここでは「教育の情報化について ―現状と課題―/2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会 第1回文部科学省資料 資料3」を元データとしてご紹介します。リンク先のPDF3ページ目。上記は画面キャプチャーにICT toolboxで書き込みを加えた(赤部分)もの。

なぜプログラミング教育なのか?

では、なぜプログラミング教育なのでしょうか。平成28年に「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」で検討された内容が「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」にまとまっていますので、参照しながらポイントを説明します。

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まず、世の中の変化です。身の回りに情報のやりとりを前提にしたモノやサービスがあふれ、それらの仕組みやモノにはたいてい何らかのプログラムによって作られている状況にあって、それらに興味をもち、成り立ちを知ることは大切だ、という前提です。

今後の社会の在り方について、とりわけ最近では、「第4次産業革命」ともいわれる、進化した人工知能が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が、社会の在り方を大きく変えていくとの予測がなされているところである。
(「議論の取りまとめ」より引用)
子供たちが、情報技術を効果的に活用しながら、論理的・創造的に思考し課題を発見・解決していくためには、コンピュータの働きを理解しながら、それが自らの問題解決にどのように活用できるかをイメージし、意図する処理がどのようにすればコンピュータに伝えられるか、さらに、コンピュータを介してどのように現実世界に働きかけることができるのかを考えることが重要になる。
(「議論の取りまとめ」より引用)

そして、特定のプログラミング言語のコーディング方法を教える、ということではないと否定した上で、仕組みに興味を持ち、かつ仕組みを作ることに興味や関心をもつこと、を大切にしています。「プログラミング的思考」という言葉を使って、論理的な思考を重視しています。

コンピュータに意図した処理を行うよう指示することができるということを体験しながら、身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題の解決には必要な手順があることに気付くこと、各教科等で育まれる思考力を基盤としながら基礎的な「プログラミング的思考」を身に付けること、コンピュータの働きを自分の生活に生かそうとする態度を身に付けることである。
(「議論の取りまとめ」より引用)
発達の段階に即して、「プログラミング的思考」(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力)を育成すること。
(「議論の取りまとめ」より引用)

また、学習指導要領全体のポイントにもあるとおり、アクティブ・ラーニングの視点で学習が行われる必要が強調され、個別作業やお楽しみに陥らないようにとの指摘がされています。

「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するプログラミング教育とすることが重要であり、一人で黙々とコンピュータに向かっているだけで授業が終わったり、子供自身の生活や体験と切り離された抽象的な内容に終始したりすることがないよう、留意が必要である。楽しく学んでコンピュータに触れることが好きになることが重要であるが、一方で、楽しいだけで終わっては学校教育としての学習成果に結びついたとは言えず、子供たちの感性や学習意欲に働きかけるためにも不十分である。
(「議論の取りまとめ」より引用)

新学習指導要領案ではどうなった?

これらを前提に、実際に新学習指導要領案では、どのように盛り込まれたのでしょうか。

基本的に、プログラミング教育は、教科になったわけではなく、何年生で何時間学習しなければいけないということが示されたわけではありません。ただし「総則」において明記されたことで、6年間の学習過程のどこかで必ず取り上げるように、ということが示されました。これをもって世間一般的には「必修」という表現をしているわけです。

各教科の特質に応じて行うこととされているため、別途プログラミング学習の時間を設けるとか、どの教科で扱わなければいけないとか、そのような位置付けではありません。実際には以下の表現で総則に盛り込まれました。

《第3の1の(3)》
第2の2の(1)に示す情報活用能力の育成を図るため,各学校において,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え,これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること。また,各種の統計資料や新聞,視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること
ア 児童がコンピュータで文字を入力するなどの学習の基盤として必要となる情報手段の基本的な操作を習得するための学習活動
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
(新学習指導要領案より引用)

ちなみに、上記引用中の「第2の2の(1)」と参照している情報活用能力については、もっと大きなくくりで以下のように表現してあります。

《第2の2の(1)》
教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成
(1) 各学校においては,児童の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。),問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう,各教科等の特質を生かしつつ,教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。
(新学習指導要領案より引用)

そして、各教科のところでは、「算数」と「理科」に「プログラミング」を体験する具体例が記載されました。

算数《第3の2の(2)》
数量や図形についての感覚を豊かにしたり,表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため,必要な場面においてコンピュータなどを
適切に活用すること。また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年〕の「B図形」の(1)における正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと
(新学習指導要領案より引用)
理科《第3の2の(2)》
観察,実験などの指導に当たっては,指導内容に応じてコンピュータや情報通信ネットワークなどを適切に活用できるようにすること。また,第
1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。
(新学習指導要領案より引用)

親和性が高い例として「算数」と「理科」に出たと解釈できるので、「算数」と「理科」で扱えばいいというわけではなく、逆に何か範囲を区切ってりやり方を指定するものでもありません。実際、「議論の取りまとめ」では、他の教科での実施例も記されています。

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元データは「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)(概要)/教育課程部会 小学校部会(第7回)配付資料」です。上記は画面キャプチャーにICT toolboxで書き込みを加えた(赤部分)もの。

自由度の高さをむしろ前向きにとらえたい

有識者会議の議論の取りまとめで掘り下げた内容からすると、一見、新学習指導要領案では薄味に感じるような盛り込まれ方だったかもしれませんし、時間数が明示されずに「各教科で」とされたことでうやむやになることを恐れる声もあるかもしれません。

ですが、時代の状況としては子どもたちに必要な学びとしてごく当たり前なジャンルだということを改めて意識して、積極的に各学校が取り組むことが大切です。

社会に開かれた教育課程として、教科横断的な視点や外部の資源を効果的に活用するというカリキュラム・マネジメントの視点、また、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)の視点といった、今回の新学習指導要領案で重視している方向性を改めて思い返してみてください。プログラミングは、むしろそれらを全部生かして盛り込んだ学習内容を非常に設定しやすい要素を持っています。

この親和性の高さを大きな推進力にして比較的自由度高く取り組める面白い時期なのだと、是非、プラスに捉えていって欲しいと思います。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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1件の返信

  1. 2017-03-21

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