未踏事業の展示会「未踏会議2024 MEET DAY」で見つけたものレポート!

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行っているIT人材の発掘育成プロジェクト「未踏事業」は、毎年公募を経て採択されたプロジェクトを第一線で活躍するプロジェクトマネージャーが技術、費用面で伴走して育成支援をするというものです。その未踏事業の修了生による展示ブースが並ぶ「未踏会議2024 MEET DAY」が2024年3月10日(日)にベルサール秋葉原で開催されました。

ブースを回って気になったものをいくつかご紹介するレポートをお届けします!

“ドキドキ”を可視化するイアリングe-lamp

アクセサリーで心の変化を可視化してしまおうというのがこちらの「e-lamp.」。「心」をどう取得するのかというと、イアリングのクリップ部分がセンサーになっていて、血管の拡大収縮から心臓の脈動を推定しています。耳たぶに当てる部分が「フォトリフレクタが搭載されたパルスセンサ」で「緑色のLED」ということなので、血管中のヘモグロビンの量で血流量を見るという方式なのではないかと思われます。

血流量と脈拍数に応じて色や明滅の状態が変わるということなので、「緊張しているのがバレると困る……」という方はむしろつけない方がいいかもしれませんが、ドキドキが見えたら楽しいシチュエーションでつけたら新しいコミュニケーションが生まれそうです。

楽譜のプラットフォームサービス

こちらの「Piascore」は、楽譜のプラットフォームサービス。さまざまな曲の楽譜をPDFでダウンロード購入できるのに加え、自作の楽譜を販売することもできます。サービスと連動しているiPad用楽譜リーダーアプリ「Piascore」には、なんとウィンクで譜めくりができるという機能がついていました。楽器の演奏は両手がふさがるものなので、これは便利! 意図せず片目をつぶって、ページをめくってしまいそうな予感もしますが、うまくコントロールできればすごく助かりそうです。

カラーセンサーで経血もれをチェックするフェムテック!

これは生理用ナプキンのサイドや前後から気づかないうちに経血がもれて下着や服を汚してしまうことを避けるために、アラートを出して教えてくれるというコンセプトのショーツ「UNLEAK」。ショーツ側のカラーセンサーでナプキンの色をチェックしてどの程度の範囲が血液を吸収している状態なのかをスマートフォンに通知して教えてくれます。

色を見るといってもショーツ側からですからそれほど大きな色の変化はないのですが、それをカラーセンサーでとらえています。こんなにゴテゴテしていては不快ではなかろうか……とちょっと心配になりますが、見た目に反してやわらかく、センサーごと洗濯できるのだそうです(洗濯はコントロールボックス部分を除く)。ユーザー使用テストもしていて使用感は問題ないとのこと。

女性にとって生理の症状やケアはとにかく面倒でストレスフルなもの。それをどうにかテクノロジーの力で解決しようという意欲的なフェムテックプロダクトです。もしかすると、これは介護現場のおむつ替えタイミングのチェックを一元的にできるようなシステムに転用すると、よりジェネラルに使ってもらえるソリューションになるのではないか……なんてことを思いました。

AIで判別!資源ゴミの分別システム

会場内でひときわ大きな装置が動いていたのがこちら、「Flexisort」。AIによる画像認識で資源ゴミの種別を判別する装置です。缶やボトル類など未分別のゴミを右側の回転装置で整列して送り出し、カメラ部分を通過したときにペットボトルかどうかを判別して、ペットボトルなら圧縮空気でプシュッと押し出して分別する……という一連の流れをデモンストレーションしていました。

現状ではこうした分別は人の手で人の目に頼って行われています。機械化するには作業スペースが狭かったり費用面が課題で既存の大規模な設備は入れられないケースが多いのだそうです。その点、Flexisortは小型で既存の施設に後から追加で設置しやすく、処理スピードも速いのがメリット。実際に資源ごみの中間処理施設で実証実験も行っています。こうした作業こそ、人が手放して作業環境を改善できたら良いと思うので、小回りの効く装置の可能性に期待したいです。

装置のデモを見ながら、地道にペットボトルの画像を大量に学習させたであろう道のりに思いを馳せました。

縫製ほとんどなしで立体化!ハイテクな服作り

全体を通して「テクノロジーってすごい!」と一番感じさせられたのは、Nature Architectsが展示していたこちらの服。

このジャケット、実は右側にぺらっと置かれている1枚の布でできています。熱で縮む糸をあらかじめ設計した通りに織り込んで布を作り、その布にスチームをあてることで収縮するべきところが収縮して立体的になる……という仕組みで出来ています。縫い合わせているのは袖の下側や体側部分など最低限の場所だけです。

作りたい立体を実現するために、どう収縮するかの計算をもとに、展開図や特別な糸の折り込み方を設計して布を織り上げるのだそうです。その設計の部分を同社が担っています。

詳しくは同社の記事を見つけたのでこちらをぜひチェックしてみてください。記事中の動画を見ると、イメージしやすいと思います。

いろいろなものの作り方がデジタルで変化していく中で、服ってなかなか平べったい布を複雑に「縫う」という行為からは抜け出せないものだな……とずっと思っていたのですが、こんな技術が開発されているのですね……。未来を感じてしまいました。

同社は、例えば硬い部分と柔らかく曲がる部分が混在しているようなものでも、部品を分けることなく3Dプリンタで一体的に出力して実現できるような設計技術を持っています。素材と構造のかけあわせで自在に機能を実現して、いきなり最終形を作ってしまえる……というイメージです。未来っぽい……!

子どもたちのチャンスを広げる未踏ジュニアとCoderDojo Japan

未踏事業の修了生を中心に運営されている「未踏ジュニア」という17歳以下代対象の人材育成プログラムのブースも出ていました。採択された小中高生には修了生を中心としたエンジニアがメンターについて指導を受けられるだけでなく、資金援助も受けられるしくみです。

子ども対象のプログラミング業界を見ていると、あるプログラミングコンテストの入賞者がその後未踏ジュニアに採択されてぐんと力を伸ばしていく様子や、未踏ジュニアで力をつけた採択者がその後プログラミングコンテストで入賞している様子などを目にします。未踏ジュニアで得られる経験は他にはない充実したものなので、大きなステップアップのチャンスです。

最近の子ども対象のプログラミングコンテストは、「身近な課題を解決する」ことがテーマになっていてそれで評価されることが多いのですが、未踏ジュニアはその感じとは一線を画していて、いい意味で“なんでもいいから自由に徹底的にこだわって!”……というエンジニア魂を感じるのが特徴です。発想も分野もバリエーション豊かで突き抜けたこだわりに出会える率が高いです。

ちなみに、2023年度の未踏ジュニアで「Be Free – 話せない人が自由に会話できるアプリ」を開発した上田蒼大さんは、このアプリでコンテストにも入賞して、新聞やテレビなどのメディアでも取り上げられていたので記憶に残っている人もいるのではないでしょうか。

未踏ジュニアの2024年度の応募は、まだぎりぎり間に合って、4/6(土)いっぱいまで受け付けています!!

お隣にはCoderDojo Japanも出展。CoderDojoは世界に広がる非営利のプログラミング道場ネットワークで、日本でも全国に200ヶ所近くに広がっています。無料で自由な雰囲気で参加できる場で、ここでプログラミングと出会ってステップアップしていくお子さんも増えています。

未踏事業の修了生という共通点で、まだ発展途上のプロダクトやサービスから、技術力で勝負する会社、社会事業など幅広い活躍を一堂に見ることができる展示会でした。未踏事業は、毎年複数の枠組みで応募を受け付けています。今年はほぼ応募が終了(未踏アドバンスがぎりぎり4/5(金)正午エントリー締め切り)してしまっていますが、興味のある方はチェックしておくと次回に向けて準備を進められるのではないでしょうか。新しい技術力で新しいものを生み出す人材をサポートする意義ある仕組みなので、ぜひチャレンジしてチャンスをつかんで欲しいと思います。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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