「教室型オールインワン授業」を再現しないことがオンライン化の鍵〜学びの要素を適材適所で分割

長期化する休校状態の中、オンラインでの学びをどうにか始めようとしている学校もあれば、まだ動きが見えないエリアもたくさんあります。

日本ではごく一部の学校をのぞいてオンラインを前提にした学習は初めての経験であり、オンライン授業というとリアルタイムで大勢の子どもに対して映像と音声で行うイメージを持ちがちです。学校だけでなく、保護者の側も、オンライン学習が始まったら、授業時間にはパソコンの前に子どもがおとなしく座って授業を受けるイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

でも、学校での授業と同じようにオンラインで授業を行うというのはあまり現実的ではありません。実際に、いくつかの海外の事例や、既に日本で取り組みを初めている学校で、自然とICTの特徴を利用できている事例では、教室の授業を置き換えるようなオンライン授業を行っているわけではありません

教室という「場」が最重要の従来型教育のイメージ

改めて振り返ってみると、学校の授業スタイルというのは、教室という「場」が最重要で、その「場」に来なければ基本的には学習ができない仕組みになっています。教室という「場」で行われる授業が魔法のようにすべての学びの要素を持っている必要があり、まさにオールインワン。子どもを引きつけ適度に対話をしながら教科のねらいを正しく興味深い方法で授業できる先生が評価されるというイメージがあります。

従来の授業イメージを組み直す

図には「管理」とありますが、支配的というマイナスの意味では無く、教室の中であらゆる要素を把握することが求められるという意味での「管理」です。学級づくりもそのうちのひとつでしょう。学習も生活面も人間関係も、ひとりの先生が一斉に対面で40人近くの管理をするので、全員に同じ教材、同じペース、同じ手段と基準を求めて、一定の規律の元に学習を進めるのが主流です。

オンライン学習を組み立てるにあたっては、このリアルな「場」重視の魔法のようなオールインワン型の学びの構造を、ひとつのオンライン手段に置き換えようとしないことが、まず重要です。

オールインワン型で40人近い子ども達を相手に、画面越しに45分間のリアルタイム授業を、問いかけや意見発表などを交えて行えるかといえば、それはまず不可能です。先生や普段子どもと付き合っている親ならば、きっと誰でも想像がつくでしょう。リアルタイムの双方向性のカメラ有りコミュニケーション手段に学習のすべてを委ねるというのは、技術的な特性からしても現実的ではありません。

オンラインでは学習に必要な要素を手段の特徴に応じて分散させる

では、オンライン系の伝達手段の特徴から見ると、どんなふうに「学び」の要素を分割できるでしょうか。

従来の授業イメージを組み直す

様々な情報伝達手段とその特徴はこちらの記事でまとめたので、あわせて参照してください。

グループでのビデオ通話は、人数が多いと意見交換は困難なので、クラス全員で討議するなどは現実的ではありません。少人数のディスカッションや、少人数のグループでの学習サポートなどの方が向いています。もちろん、顔を見ながらの交流ができる唯一の方法ではあるので、さまざまな用途に使い道はありますが、主催者、参加側ともに準備や通信にかかる負荷は大きいので、本当にビデオ通話でしかできないことに絞る方が運用しやすいと考えられます。

ビデオ通話を利用したリアルタイムのライブ授業は、視聴側、配信側の通信環境が悪いと見落しが発生する可能性もあります。そして、一般的に、動画学習では、復習のために何度も見直したり、再生速度を速めてざっと復習したり、一時停止して咀嚼するなどのコントロールを学習者側が握って自分のペースで行うものなので、ライブのみに限定するとそれらの良さがすべて失われてしまいます。知識伝達系のライブ授業は、かえって学習機会を制限することになってしまうかもしれません。

画面の前に子どもを縛り付けておくという発想ではなく、子どもが自分で学習することをサポートする方が、オンラインでの学習には向いています。とはいえ、大量の宿題を1ヶ月分、いえ1週間分でもまとめて出されてしまうと、特に小学生では管理できません。例えば、毎日のリズムを作るために、ごく少ない分量の課題が時間割通りの科目で毎日示される方が現実的です。平日のみ毎朝ホームページやオンラインファイル共有で学習課題を公開して、グループチャットや一斉メールを「今日の課題はここで告知しているから見てください」という告知や日常的な話題など声かけに使い、グループチャットがあれば、質問を受け付けてオープンで疑問点を共有しながら進めるというやり方が考えられます。

メリハリを出すために、毎日ではなくていいので、グループビデオ会話で短い交流タイムを設けたり、社会科などの学習テーマについて班単位のグループ討議を取り入れても良いでしょう。他にも、グループチャットで、課題を投稿してもらうなどの方法もあります。皆で閲覧しあうのにふさわしい工作や絵などの提出にはぴったりです。また、毎日特定の時間帯を、自由参加の交流タイムに決めておき、自由な会話ができるゆるい場づくりをすることもできます。

自然に活用している現場は意外と「ゆるい」使い方で管理的ではない

ビデオ授業ではない使い方はイメージしづらいかもしれないので、いくつか事例を紹介します。

例えば、アメリカとオランダの事例では、オンラインで、日々の細やかなやりとりをいち早く始め、毎日必ず先生と子ども達の接点があります。どちらのケースもビデオ通話はほとんどしていませんし、教材づくりに先生が時間をかけたりはしていません。その代わりに、子どもが毎朝学習内容をオンラインでチェックして学習をスタートするというリズムを作る工夫をしたり、文字ベースのやりとりを毎日行って、スモールステップで伴走しているのが特徴です。

以下の記事で詳しく紹介しているので、ぜひ具体的な方法の例として参考にしてくさだい。

アメリカ休校措置家庭学習事情レポート

日本のように先生の授業技術や学級経営力ですべてを引き受ける感覚で伴走型を行うと、たちまちパンクしてしまうかしれないので、先生の負担や手段も組み直すことが重要です。単純な知識伝達や反復練習のチェックは既存の学習動画や学習アプリを活用して省力化し、その分、子どもの学習計画のペース配分づくりや声かけ、サポートなど伴走型に変えていくような組み直しをすることが大切でしょう。これらは先生だからこそできる仕事で、家庭でこうしたサポートができる親は限られています。

日本でもさまざまな動きがあります。単純に対面授業を置き換えるような使い方ではないことがわかります。

これは千葉大教育学部附属小学校の3月休校時の緊急対応時の事例ですが、厳しい条件ながらも真っ先に行ったのは児童とのつながりをどうにか保つことでした。

一斉休校で児童と先生をICTが結んだ、学びのライフライン――千葉大学教育学部附属小学校の臨時休校対策緊急レポート(インプレス「こどもとIT」)

同校は、新学期以降は改めて学級ごとにオンラインでの学習に挑んでいることが、NHKのニュースでも取り上げられていました。

また、東京学芸大学附属小金井小学校の先生方による発表がこちらでセミナー動画として公開されています。PCを活用するにあたって教育の位置づけや先生の役割自体を変えることが大切だというポイントがとてもよくわかります。

学校再起動~Teamsが活性化する学びとコミュニケーション~(Empowered JAPAN)/YouTube

上記を含め他のセミナーとこれまでの取り組みに関するポイントをまとめた記事をインプレス「こどもとIT」で記事に書いたのであわせてご参照ください。
ポスト・コロナで目指す学校の姿は、“Face to Face”から“Side by Side”へ――東京学芸大学附属小金井小学校 臨時休校実践レポート/インプレス「こどもとIT」

もっとライトに、先生方が現場での実践を紹介しあうオンラインイベントなども行われています。アーカイブ動画が公開されているので、こちらは肩の力を抜いて先生方がどんなことから始めているかを見られると思います。

休校中でも「学びを止めるな!」STEMers FES 特別編オンライン勉強会/YouTube

また、学びのあり方自体を変える必要があるということに対して、より挑戦的に取り組んでいる小金井市立前原小学校のこちらの記事も、考え方を大きく変えるきっかけとして参考になります。
ネット環境だけじゃない、休校で明るみに出た子どもたちの本当の格差とは?〜小金井市立前原小学校 蓑手章吾先生の休校時における実践 前編/EdTechZine

いずれも現場で教えている先生方の生きた声は説得力があり、私がいくつもの事例から一般化してまとめた内容よりも遙かに強い力を持っています。ほかにもネット上では様々な記事や事例が出てきていますから、ただ手法だけでなく、ぜひ、考え方をどう転換しているかということに注目してチェックしてみてください。

動画授業だけを目指さないで

もちろんリアルタイムのオンライン授業が無駄だと言うつもりは全くありません。見慣れた先生の姿が画面から見えることは、家に閉じこもる子ども達には、楽しみになるはずです。また、高校生、大学生など、自分流の学習方法がある程度確立している年齢層には、オンライン講義は大教室での講義と同等で、何ら問題がない可能性もあります。

ただ、画面の向こうの子ども達の空間を整えることはできません。小中学校くらいの年齢段階で、教室という「場」に子どもを集めていたから成立していた学びは、学び方の組み立て直しをしなければオンラインで成立しません。動画慣れした子ども達が先生が話すだけの長尺の授業動画から離脱したり、傍らで別のことをしながら視聴する可能性をコントロールすることはできませんし、オンライン学習では、それをコントロールすることを前提にしてはいけないはずです。

このままあっさり連休明けに以前と同じ学校生活が始まると思っている人はおそらくいないでしょう。もう少ししてかろうじて再開できたとしても、今後ある程度長い期間、人数を減らした分散当校や短時間当校と自宅学習を組み合わせる可能性もあります。

学校、教室という「場」が閉ざされた途端に、電気も通信も止まっていないのに、まとめて課題が出たきり学校からのコミュニケーションがほぼ途絶えている自治体や学校はまだたくさんあります。そこでは子ども達が学校から切り離され、ただ単に「放っておかれている」と感じている可能性があります。長期戦の前提で、まずは最低限、学校や先生と子ども達とつながることからぜひ始めて欲しいと思います。子ども達に学校とつながっているという実感を届けることは、知識の提供よりもはるかに大切な学習の要素です。

(2020/05/10 参考リンクを追加しました。)

狩野 さやか

株式会社Studio947のデザイナー、ライター。ウェブやアプリのデザインを中心に制作全般を担当。ライターとしては、技術書籍の他、ICT教育やプログラミング教育について執筆している。著書に技術系で「見た目にこだわるJimdo入門」、子育て系で「ふたりは同時に親になる 産後の『ずれ』の処方箋」。

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