休校措置中のアメリカでPCがつなぐ家庭学習〜日本がオンライン学習に切り替えづらい理由は……

日曜の夜、ふたりの娘の担任教師から立て続けにメールが届きました。タイトルは、「今週の学習プラン」。筆者の暮らすアメリカ・テキサス州で、休校措置に伴うオンライン学習が始まってすでに3週間目。学校側と家庭側のルーティーンが整ってきた感じがしています。

休校措置前から1人1台PC環境が整っていた

一口にアメリカと言っても、そこは格差大国。教育環境にも、自治体によって大きなばらつきがあります。公立学校の質の良さに定評のある、筆者の住む街の公立学校では、2017年から、義務教育であるキンダー(日本の年長児)から高校3年生までの全ての児童生徒に、1人1台のノートPC「Chromebook(クロームブック)」が支給されています。

このChromebookが普段から授業に活用され、子どもたちが慣れ親しんでいるという下地があったからこそ、3月中旬に突如、休校が決まった際の教育委員会の対応も素早かったと思います。休校期間中はオンライン授業を行うこと、そのために、通常は校外持ち出し禁止のChromebookを貸し出すことが、その日のうちに発表されました。翌週、感染防止のため、校舎前のドライブスルーにズラリと車が並び、校長先生や教師たちがトランクに次々とChromebookを運び込む様子は圧巻で、「さすがアメリカ」と感心したものです。

アメリカ休校措置家庭学習事情レポート

家庭でChromebookで学習する様子

学習内容のチェックで1日が始まる

筆者の家では翌日から、毎朝9時前に姉妹それぞれ、貸与されたChromebookで市の生徒向けログインサイトにアクセスすることが、ルーティーンになりました。毎朝8時ごろ、担任教師からその日の課題リストが、Seesawというアプリで提示されるので、それに従って課題をこなしていきます。このSeesaw、全米の学校に広く採用されている教育プラットフォームで、教師、生徒、保護者で教育素材や課題を共有することができます。学年の始めに担任から渡された生徒専用のQRコードをスマホで読み込むだけで登録完了。キンダーの次女(5歳)の担任は、以前から、授業中の子どもの写真や、工作の写真などをアップロードしてくれていましたが、このツールが、今回のオンライン学習で大きな役割を果たしてくれています。

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生徒ごとにログインできる学習環境を市がClasslinkで整備している。学習に使用するアプリなどが生徒ごとに整理されている

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Seesawアプリの画面。子供がPCで直接課題のやりとりに使う(左)だけでなく、保護者がスマートフォンなどから手軽に参照(右)することもできる。

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キンダーの次女(5歳)がSeesawアプリで直接課題に取り組んでいるところ

低学年ほど親の出番が多くなる

例えば、ある日の次女の算数の課題は、足し算と引き算のワークシート。画面上のタッチパネル操作で数字を書き込んで、提出ボタンをクリックしただけで、簡単に課題を終えることができました。社会の課題はもう少し複雑で、リンク先の動画(教師が作成したオリジナルは少なく、ほとんどがYouTubeからの拾い物)を見て、その感想を文章と絵で表現しなさいというもの。

キンダーの子どもたちは、まだPC上で絵を書いたり文字を入力したりするのは難しいので、紙に鉛筆で書いたものを、親が写真に撮ってアップロードするという指定です。デジタルなんだか、アナログなんだか境目がありません。この日は同じような課題が美術の先生からも出され、親にとってもなかなかの手間です。午前9時から午後2時まで、各先生がメールかSeesaw上のテキストメッセージ機能を使って質問に答えるサポート体制をしいてくれてはいるものの、親がつきっきり状態でした。

学年が上がればGoogle Classroomで円滑なやりとりが

4年生の長女(9歳)の場合は、もうちょっと高度で、科目ごとにGoogle Classroom(グーグルクラスルーム)が設定されています。Google Classroomは、Google社が提供している学校向けのグループワーク機能で、Seesaw同様に、先生と生徒間で質問のやり取りや課題の提出管理ができる仕組み。先生から割り当てられたクラスコードを入力して、各クラスにアクセスします。長女ぐらいの学年になると、自分でGoogleドキュメントに入力したり、Googleスライドでプレゼン資料を作成したりして課題を提出することができているようです。朝、Google Classroomにアクセスすると、先生やクラスメイトとつながれているという安心感もあるようで、このあたりはアメリカのオンライン学習がうまく機能しているなと思える部分。

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4年生の長女(9歳)は、Google Classroomで学習内容が提示されるので、自分で取り組めている

オンライン学習の内容自体は手探り

とはいえ、Seesawにしろ、Google Classroomにしろ、今回の休校措置によるオンライン学習化以前から、宿題の提出や、教師と保護者間のやり取りに使われてきたやり方で、子どもにも親にも、目新しさは感じられません。実のところ、これまでのオンライン学習には、ちょっと期待はずれな印象も感じています。家庭での負担も予想外に大きい。

今後、休校期間が数ヶ月単位の長期になれば、ビデオ会議方式のライブ授業への移行を検討していると教育委員会は発表していますが、少なくとも4月いっぱいは、現行のスタイルでいくことが確定しています。いち早くZoomを使ったライブ授業を始めた他州で、不正アクセスによる授業妨害が相次いで報告されていることから、慎重になっているようです。実際、子どもの通う学校からも先日、生徒が勝手にZoomのビデオ会議を設定して先生や他の生徒を招待することを禁止するという旨のメールが送られてきました。

オンライン学習導入への鍵はハードの充実+学習内容の「ゆるさ」という側面も

1人1台のChromebook支給というハード面での充実ぶりのほかに、もう一つ、今回、アメリカでオンライン学習への切り替えが迅速に進められた理由があると筆者は考えています。それは、そもそも、普段の授業内容が「ゆるい」こと。学習素材として送られてくる動画の大半が、YouTubeからの拾い物であることは先述しましたが、アメリカの教師は普段の授業でも、子どもにYouTubeを見せまくっています。

特に、理科や社会の授業で、YouTube先生が大活躍しているそう。体育や音楽でも、ダンス動画を見て踊ったり、音楽ビデオを見て歌ったりといったことが日常的に行われています。算数や英語の授業ですら、生徒それぞれがChromebookの教育ゲームアプリをやっているだけ、なんてこともあるようです。IT活用授業ってそういうことなの?と疑問をはさみたくなりますが、この「ゆるさ」こそが、アメリカの教育現場でデジタル化、オンライン化が進んだ秘訣なのではないかと思うのです。普段の授業がこういう感じだと、今回のような非常時、オンライン学習切り替えへの抵抗感や心理的障壁もぐっと下がるのではないでしょうか。

日本で一歩を踏み出すために大切なことは……

筆者は日本を離れて8年経っているため、最新の日本の学校教育の現場には疎いのですが、以前、新聞記者として取材していた東京都や横浜市の小学校では、各校が特色ある学校つくりに心を砕いて取り組んでいた印象を持っています。それはもう、熱く、真面目に。逆に、アメリカでは、日本より早くデジタル化が進む中で、そうした各校、各教師の創意工夫をこらした授業というものが少なくなってきていたからこそ、簡単にオンライン学習に切り替えられたのではないかと思うのです。

日本でも、休校が延長された横浜市が独自の学習動画を作成して配信を始めるなど、少しずつオンライン学習が進み始めたようです。これまた日本人らしい生真面目さで、1コマ15分程度の動画を何時間もかけて撮影する先生たちの様子を報道で見ましたが、先の見えないこのコロナ禍の中では、ぜひ、アメリカ人のゆるさを見習ってもらいたいものです。「なあんだ、こんなのでいいのか」という気持ちで軽く踏み出した一歩が、日本の子どもたちの未来を変えることになるのかもしれないのですから。

恩田 和

(おんだ なごみ)ライター、元全国紙記者。大学卒業後、大手新聞社記者、米国大学院留学、大手鉄道会社広報を経て、8年前から夫の海外転勤に随行。二児の母。

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1件の返信

  1. 2020-04-26

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