「学び上げる」から「学び下りる」の発想へ〜新しい学びのとらえ方

教育系セミナーやイベントではよく、創造力、探究の力などがキーワードの「新しい学び」の形が話題になります。座学とは違い体験を伴う活動で、子どもたちが生き生きと取り組んでいる様子が報告されます。そんなときに一方から聞こえてくるのが、「探究など新しい学びは基礎学力の先にある。教師の役割はまず基礎学力をつけることだ」という半ば反発のような声。教育に携わる人同士、子どもに良い学びを届けたいという思いは同じはず。この溝、もうちょっと埋まらないものでしょうか。

学びは下から積み上げるというイメージが根強い

学びというのは下から積み上げていくものというイメージは強く、基礎をスキップして、その先にあるわくわくするようなポイントだけをいきなり経験したところで、結局力にならないとか、意味がないと思いがちではないでしょうか。どこか“いいとこ取り”のような印象があります。

私自身、けっこう長いこと、学ぶというのは基礎から積み上げていくものだと思っていました。学校もそうだし、部活などの技能を習得する系の場面でも、基礎、基礎、基礎……だった記憶があります。ところどころにゲートのようなものがあって、ここをクリアできないと先に進む権利はないよ、と閉ざされているような感じです。

一番下からひとつずつクリアして階段を登っていく感じで、『学び上げる』というイメージです。

基礎がないと、わくわくポイントは表面的な体験に終わるだけ……と思えてしまうから、「新しい学びは基礎学力の先にある。教師の役割はまず基礎学力をつけることだ」という意見になるのかもしれません。

「いいとこ取り」からスタートすることが実は多い

ところがふと、大人になってからの自身の学び方を振り返ってみると、新しいことに踏み込むときに、基礎からだいぶ進んだ途中の、わかりやすいわくわくポイントのようなところから学び始めていることが圧倒的に多いことに気づきます。いわば“いいとこ取り”からのスタートです。

わくわくポイントで体験的な学びを積み重ねているうちに、だんだん、「いやいやこの下の方にあるはずの基礎的なところわからないと、かなりきつくなってきたぞ……」という局面が必ずやってきます。

そこで、もっと知りたいから、そこから基礎的な知識を調べて、学び進めていくことになります。すでに、“いいとこ取り”で実感は重ねているので、基礎的な学習内容に下りていっても、「あぁあれはこういうことだったんだ……」と、非常に頭に入りやすい。新しい知識でも、あちこちにトリガーがあって理解が促進される感じです。反復が必要な練習のような学びも納得して必要だと思って取り組めるようになる。『学び下りる』というイメージです。

入口がわくわくする経験だとしても、もっとわかりたいと思ったら、必ず『学び下りる』ものだなぁ、ということに気づいたら、入口はわくわくポイントでいいんじゃないか、いや、むしろ入り口をわくわくポイントにした方が学びの質も効率も上がるんじゃないか……と思えるようになりました。

『学び下りる』授業を設計する

今言われている新しい学びの形が反発を招くことがあるのは、そこに、「基礎力がない子たちがやっても形だけになって意味がない」とか、「基礎力のある子だちだからできるんでしょ」というような気持ちがあるからなのかもしれません。わくわくポイントは、基礎を通ったものだけに許されるという発想です。

これを、『学び下りる』っていう発想で捉え直すと、少し違って見えてきます。

まずわかりやすい現象の観察や体験からスタートして、実感を刻み込むことを優先する。子ども達が学ぶ楽しさを知って、わくわくして、「やってみたらできた!」という自信をつけることを大切にする。そこからさらに、「この先はもっと知識が必要かも」という気づきを生んで、「もっと知りたい」という欲を生んで、基礎に『学び下りる』しかけやしくみを重視する。そこまでがセットで授業設計の重要な部分と捉えるわけです。

今目指しているほど深い理解を伴う活動でなくて構わないから、まず体験を刻み込む、その上で、体験を確かめるかのうように『学び下りる』形で知識をつけていくというふうに、順番を変えてセットでやるものだと捉えると、新しい学びの形は決して“いいとこ取り”ではないし、むしろ子ども達のモチベーションの上がる効率のよい学び方に見えてくるのではないでしょうか。

学ぶって面白い!わかるって楽しい!の自信になる原体験を

もしかすると、『学び下りる』設計をしても、わくわくポイントが中心で基礎の部分の学びが不十分で終わる子もいるかもしれません。それでも、学ぶ楽しさは感じることができます。

基礎から積み上げるために詰め込む知識や暗記やドリルばかりに満たされると、その先にあるはずのわくわくポイントに到達する前に、つまらないという思いをつのらせ学ぶことを嫌いになって学びを止めてしまう子が出てしまうはずです。

今よく「一生学び続ける力が大切」と言われます。たしかに大人になってみると、わかりやすいのんびりできるゴールってなくて、常に走り続けているような感じがします。

大人になっても学び続ける心の基盤になるのは、基礎の積み重ねでつまらないと感じた記憶か、体験的に学んだ楽しい記憶か、どちらでしょうか……。「もっと知りたい」「わかるのって面白い」っていう学びの原動力をたくさん体感しておくことが、自力で学び進める底力につながるのではないかと思います。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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