ひとり1台のPC活用は「全員参加型」の授業に移行するチャンス!

タブレットPCが小中学校でひとり1台導入されるようになり、ICTを活用した授業を取材することが増えました。まだ多くの学校は導入から1年未満。それでも少しずつ前向きに使っている学校では、授業の姿がどんどん変わってきています。複数の先生から共通して聞く一つの特徴が「授業が全員参加型に変化している」ということです。

PCのおかげで「全員参加」スタイルが実現!

PCを使用するというと、デジタルドリルを個別にやっているだけというようなイメージを持つ方もいるかもしれません。上の世代であるほど、PC=個別化のイメージを持ちがちかもしれませんが、PCは「表現」「伝達」「共有」のツールとして、授業を変える大きな力を持っています。

例えば、ひとり1台のPCがあると、先生が投げかけた質問に対して、それぞれが自分のPCで意見を書いて先生に送り、先生は瞬時に全員の意見に目を通すことができます。先生が確認しきれなくても、全体に公開して子どもたち同士で意見を参照し合うということもできます。共有可能なツールは各社が出していて、学校で使えるツールがないということはありません。

これまでの授業ならば、それぞれがノートに書いた上で先生が数名を指名して発表させるのがパターン。ごく一握りの子の意見しか表にでません。仮に班ごとに話し合って発表させたとしても、埋もれやすい子の意見は吸い上げられず発表時には切り捨てられ表に出ることはありません。「積極的な子」と先生で展開しやすいストーリーの見えやすい劇場型の授業には、「消極的な子」というラベルとともにじっとお客さん状態でいる子どもたちもたくさんいたわけです。

全員の意見を集めたり共有したりしながら授業を進めるようになった先生からは、「子どもたちが暇にしている時間がなく参加しているという感じ「今まで発言しないタイプの子が、こんなふうに考えていたのかと気付いた」という声を聞きます。PCで「表現」「伝達」「共有」するフローが授業の中にできてくると、授業は“参加する”忙しいものになってきています。

意見を集めるだけでなく、授業の冒頭でさっとアンケート風に選択問題を出して正答率を見て、前回の定着度を見ることに使っている先生も。グループワークツールのフォーム機能は自動集計は当たり前で、自動採点させることもできますから、小テストのためのプリントの準備も採点の手間もなくさっとクラスの状況をつかめます。

子どもたちはみんな「見て欲しい!」と思っていたのかも

なかには、「全員に意見を書かせたり問題を解かせたりして送信させるというやり方は、消極的な子どもにはプレッシャーになるのではないか……」と心配していたという先生も。ところがそれはどうやら杞憂で、特に誰も嫌がっている様子はなくPCを使う授業を楽しみにしている様子です。「みんな見て欲しかったのかな……」という先生の言葉が印象的でした。

ある先生は、ひとり1台のPCがあると、それまでに比べて授業中に意見共有のシーンを作ることがとても簡単になったと実感しています。本音で言えば、先生自身に準備の余裕がなく、『個別に考え全体に共有したり周りと意見交換したりする』ような活動はなかなかできなかったそうです。PCのおかげでそんな活動を組み込みやすくなったことで、子どもたちが授業中に他の人の意見を目や耳にする機会が明らかに増えました。そのおかげか、「普段の生活の中で、相手の意見を聞いたりするコミュニケーション力が上がったような気がする」ということですから、大きな効果です。

意見がない子なんておそらくいなくて、発表した時の周りの反応が負担で怖かったり面倒だったりするだけなのかもしれません。だとすれば、まずは子どもたちが自分の考えを表出して先生ひとりでもいいから受け止めるところからスタートするのは大切なことでしょう。さらに、授業のストーリーの中で評価されるのではなく、子ども同士が全員の意見を読み合うなどして、いろいろな意見が、正解不正解なくあふれているということに慣れる。そういう体験が、発言への勇気や相手の声を聞く習慣につながっていくような気がします。

個別に送信できることは「安心感」にもつながる

ある校内アンケートを紙ではなくフォームで行ってみたという先生から、「紙のアンケートだと自由記述欄はほとんど真っ白なのに、フォームにしたら半数くらいが自由記述欄にコメントを書いてきた」と教えてくれたことがあります。「なぜかオンラインフォームだと饒舌」という声は他にもよく聞きます。

PC経由では、書いたり口頭で発表するよりもはるかに心の敷居が低く発信できる子が多いようなので、全員参加型の意見交換に向いているのかもしれません。

また、非公開のアンケードなどの場合、「紙よりもPCからの方が、誰かに見られる心配がなくていい」という声を子ども側から聞いたことがあります。紙のアンケートは、教室で書いている途中や回収過程で周りの子どもの目に触れてしまう可能性があり、特にプライベートなことは書きづらいものでしょう。子どもたちが先生に、安心、安全に伝えられる手段だということも、注目しておきたいポイントです。

もし、「PCなんてしょせん電子ドリルでしょ」なんて思っている方がいたらそれはとてももったいない使い方です。子どもたちの生き生きとした声を交換する最強ツールかもしれない、とぜひイメージを転換してみてください。

[関連記事:GIGAで整備された1人1台デバイス時代の授業スタイルは脱「劇場型」へ

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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