道徳×AI !?の授業の試みに感じた効果/東京学芸大学附属小金井小学校公開授業

AI×道徳の試みをする!?……と聞いて、2023年3月4日(土)に行われた東京学芸大学附属小金井小学校の「ICTを活用した道徳教育の充実〜令和4年度 道徳教育の抜本的改善・充実に係る支援事業 成果報告会」の公開授業を見てきました。AIを使った授業の試みに感じた効果や面白さにしぼって感想を記します。

ふつうの道徳の授業が始まったようだけれど……

授業を行ったのは、4年生担任の鈴木秀樹先生です。鈴木先生はGIGAスクール構想以前からICT活用に積極的で、授業を通じてインクルーシブな学びの環境、学びのスタイルの変化などを提案しています。

今回の授業で取り上げたのは、「絵はがきと切手」。友達から郵便料金不足の葉書が届いて、友達に料金不足だった事を伝えるべきかどうか悩むという話をもとに、自分だったらどうするかを考えていきます。

まず、自分なら料金不足のことを友達に伝えるかどうか、最初の気持ちを聞き、その後、先生がさまざまな形で子どもたちの意見を引き出して、いろいろな考え方がある事を示していきます。

児童は一人一台端末で光村図書の道徳のデジタル教科書を使用し、Microsoft TeamsやPadletでの意見共有にも慣れています。子ども達は隣の人と意見交換するときもとてもよく声が出ているし、挙手も積極的です。

意見交換にAIが登場!

子どもたちの意見を引き出す過程で、鈴木先生はAIを登場させました。会話形式のテキストで応答するAIモデルが組み込まれたMicrosoftの検索エンジンBingです。最近話題のChatGPTを強化して検索に最適化したAIモデルが組み込まれた新しいBingがプレビュー版として限定公開されていて、鈴木先生がそれを利用しました。

なお、プレビュー版というのは、開発段階で精度を高めたり問題を見つけたりするために公開するもので、正式な一般公開のサービスではありません。

先生が、状況を完結にまとめて、料金不足だったことを友達に伝えた方が良いかどうか聞く文章をBingのチャットに書きこみます。Bingからはそれなりの返答が。関連してどんなことを聞いたいか先生が子ども達にたずね、いくつか質問を重ねます。さっとあがってくる返答に、子どもたちは楽しんで反応しています。

公開授業の様子。日本マイクロソフト品川本社セミナールームで実施/許可を得た写真を掲載

意見交換の雰囲気が一気にやわらかくなった

私が見ていて感じたのは、AIの返答を見てから、子どもたちの意見交換の雰囲気がいっそうほぐれたということです。AIはクラスメイトではなく全員に対して外側の存在。そのAIの返答に対して「それは賛成できない意見だな……」と感じたときに、遠慮なく自分の意見を展開させられている気がしました。

「遠慮なく」というのは、「反対意見を言ったら相手を傷つけるかも……」とか「こんなこと言ったらどう思われるかな……」というような過剰な配慮をしないで済む、という意味です。特に道徳には、発言する内容と個の人格が結びつけられてしまいそうな窮屈なイメージがあり、自由な意見交換がしづらい時間だという印象を私はもともと持っていました。

その点、AIが介在すると、返答をひとつの形式として捉えられるので、なんだか風通しがよく、いらぬ配慮が消えて、フラットな意見交換がしやすくなったと感じました。見学した授業では目立って遠慮している様子があったわけでは決してないのですが、それでもさらに場がほぐれて明るくなって、堅さがなくなって、一段と自由な空気が生まれたと感じたのです。

AIは人が知的主導権をもった使い方がおすすめ

現時点では、ChatGPTのようなAIモデルは質問に対して正確な回答ができるわけではありません。プレビュー版の新しいBingにも、間違う可能性があるので、必ず事実を確認するようにと注意書きがあります。

正確な知識を得るために使うものというより、今のところ、知的な主導権を人が持ったまま、一定の条件で大量のパターンを例示させたり、効率をあげるために部分的な作業をさせたりすることに向いています。自分が主導権を持って適所で使えばとても便利なツールになる可能性があります。

今回の授業は、パターンを例示するという用途で使ったと捉えられます。人ではない何かが回答した意見が登場するだけで、意見交換が活性化されるという、とても面白い効果があったと感じています。

AIに人格や意志はない!けれど……

授業を見ていてとても印象的だったのは、子ども達が先生から、AIに何を聞きたいかを問われたときに、複数の児童が「あなたは〜ですか?」という言い回しをしたことです。まるでAIに意志や人格がある前提で問いかけているかのようです。

もちろんAIには意志も人格もありません。大量の情報を学習させて作られるAIモデルが質問にふさわしいと判定した返答を生成しているだけのことで、意志をもってユーザーになにかをすすめたりしているわけではありません。

今回も、Bingのチャットが人であるかのような誤解をさせないように、「私は検索エンジンであり……」と前置きして回答が生成されるシーンがありました。そう回答せずに人だと思わせるようなことがあっては問題だからです。

AIを意志をもった存在のように捉えるのは、技術的な背景の受け止めとして間違っていますから、そこは、子ども達に誤解させたくないポイントです。

新しい技術にふれるときには、技術的背景に興味を持つチャンス。大雑把なイメージを持つだけで構わないので、テクノロジーに関する小さな子ども向けのかみくだいた情報源がやはり必要な時代だな……と改めて感じさせられます。

大人だってわかるわけではないので簡単に解説されたものを読んでみたり、手放しですごい!と受け入れるのでも、これはダメだ!と遠ざけるのでもなく、技術をまずは使ってみて、いろいろと試してみて、技術の使い手としてどういう距離感で接するかを自分なりに考えてみることが大切なのだと思います。

<2023/3/7追記>この公開授業の鈴木秀樹先生が書かれたレポートが公開されました。先生の意図や全体の流れなどがわかりますので、ぜひ授業についての詳細はこちらをご参照ください。
Bing(ChatGPT)は道徳教育の夢を見るか

<2023/4/8追記>東京学芸大学附属小金井小学校ICT部会がこの授業のダイジェストムービーを公開していますので紹介します。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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