[オランダ現地レポート] 休校でデジタルシフトした小学生の学習事情〜オンライン一斉授業ではなかった!毎日の小さな課題でフォロー

2020年3月15日、オランダ政府より「翌日からの学校と飲食店の閉鎖」が発表されました。政府とメディアの働きかけの下、周辺国での爆発的な感染増加を目の当たりにしていることもあり、多くの人は「最低限の買い物と運動」以外は極力外に出ない生活を続けています。少なくともGW明けまでの休校が決定しており自粛生活がまだまだ続きそうな中、学習をどう継続させるのか、教育格差を広げないためにどうしたらよいのか、試行錯誤されています。

子供の自宅学習、家族によるサポートを継続することは暮しに慣れている人でもやはり難しいとは聞いています。つたないオランダ語力の移住者にとってはなおさらで、きりきり舞いな日々ですが、子供が家で学校の勉強を行う様子にはなるほどと感心することが多く、興味深いものでもあります。

オランダの学校は学校によって教育方針や手法がかなり異なるためあくまでも一例ですが、自宅学習の取り組み方、ICTの利用方法などについてお伝えしたいと思います。

教材とスケジュールを受け取って、いよいよ自宅学習がはじまった

休校となって3日目の水曜日、学習用スケジュールと教材が学校から配布されました。小学校3年生にあたるわが家の子供が受け取ったのは、オランダ語の教科書とワークブックが合計6冊とプリント類。学校に置いていた本人の筆記用具、ノートの他にちょっとしたプレゼント(イースター用に卵をペイントするおもちゃ)も入っていました。

とりいそぎもらったスケジュールは2週間分。毎日5、6項目が課題として表になっています。算数、書き取り、国語は毎日組み込まれ、その他の3項目には歴史やパズル、工作、運動などが織り交ぜられています。取り組みの順番や時間は自由ですが、午前中を学習にあてることが推奨されています。通っている小学校の就学時間は8:30から14:15までですが、小学校3年生くらいでは午前中が限界、という考えなのかもしれません。

オランダの教科書、自宅学習教材

印刷物、プリントが意外と多い。

学校では日頃からiPadを使っての学習時間があるため、生徒たちはタブレットなどデジタルデバイスの利用に慣れています。とはいえ、オンラインでの授業やミーティングについては最初の2週間のスケジュールには記されていませんでした。3週間目からは少人数のグループと先生で行うビデオチャットが開始されたのですが、30分のミーティングが週に1、2回と、今のところ割合としてはわずかです。基本的にはスケジュール表と毎朝連絡される追加の連絡事項を元に、わからないことは先生にチャットで質問しつつ、印刷教材とデジタル教材を利用して自分で学習を進めることになります。

うちの子供の一日の様子ですが、朝はまず紙のスケジュール表を確認しながら、学校アプリ上でその日追加された情報を確認します。あとは好きな順番で課題に取り組み、休憩を入れつつ2時間ほどで課題を終了します。そのうちインターネットを利用している時間は半分ほど。午前中に時間が余れば、その日学習したテーマに関連する動画を見たり、好きな学習アプリで遊んだりして過ごしています。

学習後は成果物を写真一枚に収め、学校アプリを介して先生に送ります

学校アプリで学習内容を連絡

毎日学習の後は1枚の写真を送信。内容までチェックできそうにないのですが、それでいいようです。

デジタルデバイスの利用についてですが、教科や課題によって使い方が様々です。教科毎にどのように取り組んでいるのかをご紹介します。

自宅学習の内容事例(小学3年生)

算数:オンラインの学習プログラム

算数の学習はほぼ全て、学習アプリを利用しています。必修とされている課題はほんの少しなのですが、取り組み中のテーマやレベルに合わせて「適した学習アプリのコンテンツ」「深めることのできる追加課題」が山程用意されていて、気が向きさえすればいくらでも追加の学習を行うことが可能です。

複数の学習アプリを横断し、様々なタイプのコンテンツを利用できるのですが、どの学習コンテンツも直感的に使えて、理解しやすいように作られています。ゲーム要素が取り込まれているものも多く、学習に全く関係ない息抜きのためのゲームも織り交ぜられていたりします。

オランダの学習アプリ Gynzy

毎日の必須課題となっている学習アプリ Gynzy の1画面。算数(割り算)の様子。

書き取り:先生の作った板書のビデオを見ながらノートに書き取り

単語のアルファベット構成や発音について説明する動画を見ながら、ノートに書き取っていきます。動画はクラスの先生が作成したもので毎日7分前後。その日利用するVimeo動画のURLが毎日朝一番に連絡されます。

クラスの先生が作成したビデオを見ながら書き取り

クラスの先生が説明するビデオを見ながら綴り(書き取り)の学習

国語:主に教科書とワークブックを利用 (+ 動画を補助的に利用)

算数はほとんどオンラインで行われて手持ちの教材がないのに対し、国語(オランダ語)の印刷物教材はかなりの量です。

  • 「文法とスペリング」文法用語を図解した早見表
  • 「一般教養」社会的、理科的知識がテーマ毎にまとめられた教科書
  • 「読解」1冊の物語が教科書となっています

上記3種の教材に対し、それぞれに対応するワークブックがあります。これらの「文法とスペリング」「一般教養」「読解」のうちいずれかが国語として毎日のスケジュールに割り当てられています。

教科書とワークブックを見てみたのですが

  • 複数ある教科書の役割がはっきりしている
  • 様々な種類の図解やイラストが豊富に利用されていて見ていて楽しい
  • ワークブックは1日で完結できる量(2ページ)でチャプター毎にまとめられ、学習中のテーマに関連する様々なタイプの問題が用意されている

印刷物も楽しさに満ちていることに加え、「何について学んでいるのか」「取り組む範囲」が明快で、独学でも比較的進めやすいように思います。

テーマに関連する動画、文法用語を説明した動画、国語のアプリなど、必要もしくは余裕があればデジタルコンテンツも利用します。

オランダ語の教科書とワークブック

教科書(下)もワークブック(上)も様々なイラストと図解があって楽しげ。

歴史:プリントを読んでレポートを作成 (+ 必要に応じてインターネットなどで調べる)

現在取り組んでいるのは「ローマ人がもたらした革新的な技術や生活について」です。テキストとイラストの割合が半々くらいの教科書のコピー4枚が配布されているのですが、1ヶ月にわたってこのテキストを読み、インターネットを使ったり家族に聞いたり、自由に調べてレポートを書くのが課題です。歴史という科目でありつつもリサーチの要素もあると言えそうです。

その他、パズルや工作、エクササイズなど:

学習的項目の他にクロスワード、条件によってマス目などを塗りつぶして絵を完成させるなどのパズル、「誰かに送る花束を作ろう(2Dでも3Dでも可)」などの工作課題や料理などもスケジュールに織り交ぜられています。動画をみて踊る、などエクササイズの課題などもあります。

自宅学習にラップトップ、タブレットは必須。そのための環境整備。

家庭で学習用に利用するPCやタブレットについてですが、休校開始の連絡と共に学校から子供用のデバイスがない場合は相談を、との連絡が入りました。現在通う学校は一人一台のiPadが完備されているので、必要な場合は家庭に貸出すると聞いています。基本的には自宅で用意できる場合は自宅のデバイスを利用し、できない場合は学校や自治体がサポートするというスタンスのようです。

クラスに数台の共用PCを交代で使うケース、PC数十台が揃えられた教室を利用するケースなど、学校によってデジタルツールの利用方法、保有率はかなり異なります。学校が十分な台数を保有していなくても、全ての生徒がデジタルデバイスを利用できるよう、教育文化科学省 (Ministerie van Onderwijs, Cultuur en Wetenschap) が緊急の支援として250万ユーロ(約3億)を用意しました。先日は6800台が学校を通して必要な家庭に届けられたとのことです。

また、経済的な事情でインターネットを常時利用できない家庭についても調査をしており、なんらかのサポートが入るようです。

毎日追加される参考情報、連絡事項……学校専用のSNS的アプリが大活躍。

子供の学校では、保護者と学校との連絡ツールとして普段から学校アプリ(Social Schools)を利用していました。学校での利用に特化されたアプリですが、学校とのやりとり、イベントや行事の確認、欠席連絡などSNSに似た豊富な機能を備えています。

今回の一斉休校で自宅学習が始まるにあたって、急遽親のアカウントに紐づく形で子供それぞれのアカウントが追加され、子供が利用するにあたってのルールが通知されました。

  • タイムライン形式で投稿される学校からの連絡を確認(メールでも連絡あり)
  • 先生とのチャット。平日の 9:00 – 12:00 は先生が可能な範囲で即時対応。
  • 毎日の取り組みを先生に報告(ワークブックやプリントを写真で送る)

アプリを使って行うのは主に上記の内容です。

一日に数回送られてくる学習課題に関する追加情報、先生とのやりとりの履歴など、自宅学習に関する情報はあっという間に膨大になります。それらを管理するのに学校アプリは相当役立っており、3週間が経った今、もはや不可欠となっていることを実感しています。

学習アプリで毎日追加される情報

物語のビデオ、工作のレシピ、エクササイズのダンス動画など様々な情報が毎日送られてくる

オンライン = リアルタイムの授業配信ではない?〜既存の豊富な学習コンテンツが学習をサポート

「オンラインで先生と生徒が一堂に介し、何かしらの授業を受ける」
「何かしらまとまった学習用アプリで順を追って学習を進める」

「オンラインを利用した自宅学習」との言葉に自分は上記のようなイメージを持っていたのですが、実際の子供の「自宅学習」の様子は全く違っていました

  • 様々な学習アプリの膨大なコンテンツの中から必要なプログラムを利用
  • 学習テーマに関連する動画の閲覧(YouTube、Vimeo、TVプログラムサイトの動画)
  • 質問事項など、先生とチャット

インターネットを利用して毎日子供が行っているのは主に上記の項目です。

  • 関連する電子書籍の閲覧
  • リサーチに必要な情報の検索

なども必要に応じて行うようです。(うちではまだそこまで使いこなせてはいませんが……)

学習アプリについてですが、利用しているのは1つだけではありません。学習アプリのポータルが整備されていて、ポータルにログインすることで複数の学習アプリ(※1)にアクセスできるようになっています。

オランダでは多くの小学校が普段から学習アプリを利用しているのですが、休校が始まるにあたってデジタル教材、教育アプリが全て無料となる措置がとられたため、利用するアプリを増やしている学校もあるようです。

複数の教育アプリのそれぞれが教科やレベル、テーマに分かれた細かなコンテンツを持っているため、利用できるプログラムは膨大です。

また、学習テーマに沿って作られたTV番組の動画など、無料で公開されているデジタルコンテンツも数多くあります。教育用の動画は主に2、3分と短く、学習用語やテーマ毎に作られているため、わからないことがあるときに検索すると簡単に見つけることができます。

オランダの学習アプリ色々

BASIS POORT(学習アプリポータル)と様々な学習アプリの入り口画面。

印刷物とデジタルツールを織り交ぜて利用しながら、わからないことは先生にチャットで質問したり、家族に聞いたり、検索して参考動画を見たりしつつ……初めて触るツールも多く最初は操作に戸惑いましたが、およそ1ヶ月が経っている現在、スムーズにとはいかないまでも、なんとか毎日自宅学習が進められているように思います。

やはり毎日自宅での学習は辛い……モチベーションを保つため、よく考えられている点

3週間目に入って、生徒3-4人と先生を交えてのグループミーティングが取り入れられました。久々にクラスメートの顔を見て直接話ができるのは子供にとって相当嬉しかったようで、近況報告のミーティング後も子どもたちはしばらく続けておしゃべりを楽しんでいました。

2回目以降のグループミーティングは強化が必要なテーマ毎にグループが組まれて授業らしきものを受けています。前回は「オランダ語のボキャブラリー」にあたる時間でしたが、学習中のテーマに関する語彙に関するクイズに、その場で作ったAからDの4択カードを使って答える、といったゲーム的なもので授業、といった堅苦しさはありません

オランダの小学校に通う子供を見ていると、人に迷惑をかけない限り「辛抱しながらやりたくないことをする」ことや「細かい規制・規則」は普段から皆無に見えます。オンラインの学習においても課題は最小限です。

  • 1つ1つの取り組みが短時間で完了できる
  • 何について学習しているかが明確
  • 豊富な教材、参考動画やツールから、随時有用なものをピックアップ
  • 遊びの要素が織り交ぜられている
  • 基本、褒められる(間違いや不足があっても気にしない)

ざっくりしているところも多いのですが「飽きなく」「楽しく」取り組めるよう考慮されており、先生方は既存の教材、デジタルツールを駆使しつつ、いかに子供のモチベーションを上げてサポートするか、に注力しているように見えます。

柔軟に、迅速に、試行錯誤するオランダの教育現場

オランダでも教員不足は深刻です。よりよい待遇と教育への投資を求める教育関係者によるデモが定期的に行われているのですが、年々その頻度を増しています。豊富な教育コンテンツと学習用アプリ、情報管理とコミュニケーションのためのツール(教育アプリのポータルやSNS的な学校アプリ)は普段から教員不足にあえぐ教育現場の効率化と「子供が自律的に学習できる環境」の整備に役立っているのですが、今回の休校措置にあたって重要性がさらに高まっているように思えます。

比較的デジタルの教育への導入が進んでいるかのように見えるオランダでも、一斉休校にあたって、各学校が手探りで新しい体制づくりに取り組んでいます。アクセス集中によりアプリのサーバーが落ちるなどインフラ面の問題もないわけではないのですが、それぞれの機関が必死に対応している様子がうかがえます。また、オンライン学習に関する情報を学校や教師間で共有する体制もとられています(※2)

ガチガチに体制を整えなくても、既存のツールを柔軟に使いつつ、変化していくことを前提に色々なことを試していく、有用な情報を共有する、というのは日本の現場でも取り入れられるように思います。新しいことに取り組むチャンス、と前向きに捉えて、各家庭でも学校でも、今までできなかったことに一歩踏み込んで取り組んでみてはいかがでしょうか。

仲間と学ぶ、学校のありがたみを痛感しつつ……とにかくは早く事態が落ち着いて学校が再開されることを願いながら、オランダからのレポートでした。

※1 オランダで利用されている学習アプリ、学習システムの例
Gynzy : https://www.gynzy.com
Ambrasoft : https://ambrasoft.nl
Squla : https://www.squla.nl

※2 オンライン学習に関する情報サイト:
https://www.lesopafstand.nl/
https://www.leraar.nl/
https://www.wijslijst.nl/

伊東 けいこ

Web制作者&ライター。2017年よりオランダ在住。 サイト構築の傍らオランダにおける教育&テクノロジー、社会&テクノロジー周辺を追っています。https://chari-kamo.com

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