「リーディングDXスクール」の普段着のICT使い〜座間市立中原小学校

文部科学省が全国約200の小中学校を「リーディングDXスクール」に指定して、授業や校務でのICT活用を広げ、定着させるための参考事例としています。そのリーディングDXスクールの指定を受けている座間市立中原小学校(神奈川県)の授業公開をのぞいてきました。座間市にGIGAスクール構想で導入された1人1台端末はChromebook。全学年1クラスずつ公開された授業では、Google系のクラウドソリューションを自然に使う姿がありました。

学年に応じたさまざまな使い方

公開日は2、3年生の該当クラスが学級閉鎖だったため、それ以外の学年と特別支援学級を見てまわりました。各教室で見て感じたICT活用ポイントを、指導案から読み取れる授業の流れをふまえてご紹介します。

1年生 生活科

1年生は生活科「たのしい あき いっぱい」の単元。「たのしいあきを つたえよう」をめあてに、これまでの時間の活動で見つけた秋の写真の中から1つ選んで、おすすめポイントを紹介する活動をしていました。Google Jamboardに選んだ写真を貼り付けて写真の説明などを書き込みます。周りの人同士で発表し合うときには、小さなグループで画面をのぞきこみあって行いました。1年生ですから、写真を撮るような視覚的な活動はハードルが低くて取り組みやすいのがいいですね。1年生でも、複数の情報(写真)から1つを選んでまとめて発表するという一連の流れを1コマの授業でできたのは、デジタルならではのスピード感かもしれません。

写真と短いコメントを入れてまとめている
共有するときは発表する人の周りに集まって
1年生がこの授業時間でやることの見通しをたてられるような工夫がされている

4年生 国語科

4年生は国語科「ごんぎつね」の単元。「ぐったりと目をつぶったまま、うなずいた ごんの気持ちを想像しよう」というテーマでそれぞれの考えを共有しました。全員に発言の機会がまわるようにしながら、先生が発表者の考えを黒板の模造紙に書き出して可視化していきます。口頭の発言が行われているのと同時にGoogle Classroomにいつでも自分の考えや発表者への反応を書き込んで意見共有をしていくというスタイルで、たくさんの意見がClassroomに流れています。口頭発表だけだと、一人の発言時間は限られ、あとは待ち時間ばかりになるところが、同時にClassroomでコミュニケーションができるので、言い足りなかったことを書いたり、感想を伝えたりすることができます。その効果なのか、子ども達の側に伝えたいことがあふれていて、授業の終わりでは「もっと言いたいことがある!」と、とても活発な空気で盛り上がっていました。

左手の大型モニターにClassroomのコメント、右手にデジタル教科書をそれぞれ表示

5年生 社会科

5年生は社会科「日本の工業生産の今と未来」の単元。黒板には子ども達の見通しが立てられるよう、やることとそのステップが明示されています。「大きな工場と小さな工場の生産の特色」を最終的にJamboardに整理してまとめます。教科書や動画から情報を調べるときにClassroomで気づいたことをコメントし相互にヒントを得るきっかけにし、また、まとめをするJamboardも常に共有し他の人のものを見て参考にし合えるようにして進めてきた様子。最終的なまとめ方はそれぞれ個性が出ていて、自分なりのアプローチで特色をつかんでまとめていることがとてもよく伝わってきました。教員が黒板にまとめたものをノートにきれいに写させるとか、ワークシートの穴埋めをさせるような授業では決して身につかない力がつき、学んだ内容も記憶にはるかに残りやすいはずです。

学習のステップが明示されている
同じテーマでも子どもによってまとめ方はいろいろ。個性が出る

6年生 国語科

6年生は国語科「日本文化を発信しよう」の単元。日本文化をつたえるパンフレットづくりをGoogleスライドで行います。パンフレットづくりの作業が中心の段階になると、なんとなくすぐに作業に入ってしまいそうですが、授業の最初にはめあてを共有のGoogleスプレッドシートに書いて、自分の課題をはっきりさせました。子ども達はめあてを書くことが習慣づいているのか、手慣れた様子でタイピングに苦労することもなくさっとめあてを書き、周りと共有し、それぞれの作業に入ります。デジタルでのパンフレット制作は紙でやるよりもはるかに便利で試行錯誤しやすいのがメリットで、レイアウトの調整や文章の再検討を繰り返し行えます。先生は、ルーブリックを見ることを促していたので、評価基準も公開しているのでしょう。また、他の人のスライドをクラウド経由で参照できるので、どんどん見合って参考にするように声をかけていました。

これまでやってきたこと、この時間にやることを確認

特別支援学級

特別支援学級では「言葉あつめ」の単元。クイズを作成して、順番に出題し、皆で答えをあてる活動をしていました。形や大きさや色などの特徴がヒントになることをふまえ、クイズを作ります。子どもの特性に応じて、Jamboardで言葉でヒントを書いてクイズを作るか、Google描画キャンバスで写真あてクイズを作るかどちらかを選んだ様子。写真あてクイズは、答えにしたい写真を撮って描画キャンバスで開き、上のレイヤーを好きな色や絵で塗りつぶしたら完成です。出題するときには、塗りつぶした部分を消しゴムツールで少しずつ消して下の写真を見せます。現れた写真の一部を手がかりに、何の写真なのか当てるのです。クイズを言葉で出すよりも、写真をあてるクイズは作るのも答えるのも少しハードルが下がりとても面白いと感じました。こんなクイズを作れるのはデジタルならではですし、デジタルならば何度失敗しても何手でも戻ることができて、やり直すのも簡単なので、作業中に嫌な気持ちになりづらいのがメリットです。

左が全部ぬりつぶして絵を描いたクイズ。右が出題中。少しずつ消して下の写真が見え始めている

公開授業後の全体会でもICTをフル活用

公開授業後の全体会では、まず教員自身が使ってみるということをとても前向きに意識していることが各所で伝わってきました。Chromebookなので基本的に使用するのはGoogleのクラウドツール。情報伝達のベースを積極的にデジタル化しています。

そもそもこの公開授業自体、開催案内や指導案は事前にクラウドで共有され紙での配布はせず、現場での配布物はごく最低限にとどめられていました。とても良い変革の一歩だと思います。また、この日の公開授業の様子は、空いている先生がクラスをまわって写真を撮り、随時リアルタイムで教員間のチャットにあげてコメントしあっていたそうです。

そして、全体会の間はずっと参加者用のチャットが開かれていて、随時好きに書き込めるようになっていて、質問が入れば即時担当者が返信をするという体制が取られていました。質問に限らず気軽に一言を書き込めるタイムラインの雰囲気があり、面白い試みでした。先生が自分たちでとにかく積極的に使おうとしている空気があり、それがとても印象的です。

全体会の講演中も左側の大型モニターにはコミュニケーション用チャットが表示されている

なお、授業以外の全体会部分は事前登録者へのオンライン配信も行われていました。

まず教員が校務で使い慣れる

同校ではICT活用推進のために、まずは教員が校務で使いこなすことを意識してきたそうです。適宜チャットを開設して教員間で常時情報交換できるようにしたり、職員会議資料をClassroomで共有したり、さまざまな日常使いをしているとのこと。校内の授業研究でも指導案をGoogleドキュメントで共有して教員間でコメントをつけあって検討したり、振り返りを全員が共有スプレッドシートに書き込むなど、クラウド上での意見交換を行っています。

まず大人自身が、自分たちの校務の利便性を上げたり、コミュニケーションを密にしたりするためにICTを使うことを定着させてしまえば、授業で使うアイデアは教育のプロである教員ならば実は自然と思いつくものだと思います。結局まず大人が自分自身のために使うことが、授業や課外活動で活用を推進する一番の近道なのだと思います。

教室でも気負った使い方ではなくて、どこか自然で馴染んでいる感じを受けたのは、教員側が普段使いしているからなのだろうと納得しました。

1年半前にゼロからのスタート!

こんな中原小学校もICT活用に着手したのは1年半前だそうです。数人の先生で手探りでGIGA端末のChromebookの活用に取り組み始めたところからのスタート。短期間でよくここまできていると感じました。おそらくそれを支えているのは、細かい使い方アイデアとかルールとかではなく、学年を問わず共通するベースの活用原則を共有しているからではないかと思います。

例えば、学校全体で「子ども一人ひとりが活躍できるために」を前提に掲げ、「(1)見通しを持たせる」「(2)学習過程と見方・考え方を伝える」「(3)他者・途中参照」を共通の手立てにしているとのこと。確かに授業を振り返ると、その原則に沿ってそれぞれの学年にあった具体的な使い方に落とし込んでいることがわかります。授業をする先生の声かけもそれを意識していることが伝わってきました。

また、同校には東京学芸大学の高橋純教授が指導に入っていて、全体会でも高橋教授の講演が行われました。専門家からベースとなる方向性や考え方、ICT活用で先行する他地域の事例などを積極的に学び受け入れ、効率よく吸収できた効果もあるのだと思います。失敗も繰り返してきたという先生方の「とりあえずやってみよう」という心意気が感じられる、どこか温かい雰囲気のある授業公開でした。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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