学校と家庭がつながり続けたアメリカベイエリアの休校中オンライン学習〜PBL(プロジェクト型学習)も遠隔で
日本や、ヨーロッパの各国に続いて、ここアメリカでも、新型コロナウイルスの感染者急増のニュースが舞い込んだ、3月上旬。
筆者が住む、ベイエリア・サンフランシスコ近郊の学校も休校となり、オンライン遠隔学習が始まりました。
小学4年生の息子が通う公立のチャータースクールは、多国籍多民族の家族を受け入れ、家庭環境も学力レベルもさまざまな子ども達が一緒に学んでいるダイバーシティーあふれる学校です。
休校措置にあたり、それぞれの学区で緊急対策が講じられる中、教職員スタッフ総出で対応にあたり、休校1日目からオンライン遠隔学習をスタートさせたそのスピードは、目を見張るものがありました。
現在、6月に入り、学年末の修了式を目前に控え、この約3ヶ月間に渡り試行錯誤で進化していったオンラインの遠隔学習の様子を、紹介したいと思います。
休校初日からオンライン遠隔学習をスタート
学校側から、正式に休校の知らせがあったのは3月13日(金)。翌週の3月16日(月)からオンライン遠隔学習に切り替わる準備として、授業中にGoogle Classroomの設定と使い方の指導があり、また、担任の先生からは、Google Classroomのアクセスの仕方、課題の提出方法、及び、学習内容などの詳細が保護者宛にメールで届きました。
漠然とした不安が広がる中、校長先生からは、生徒の学びの勢いを止めないように学校は全力でサポートすること、家庭にも協力をお願いしたいというメッセージが届き、学校と保護者が協力体制を築き、自宅待機の生活とオンラインの遠隔学習が、ほぼ同時のタイミングで始まりました。
生徒専用の端末が準備できない家庭には、学校のChromebookが貸し出され、オンライン遠隔学習の環境作りが整備されました。
1日の流れ
朝8時半に、Google Classroomに提示された今日のスケジュールと課題をチェックした後、クラス全員参加のZoomによるモーニングサークル(朝の会)で1日が始まります。
先生から生徒へ、生徒からお友達へと順番に、世界の言語で朝の挨拶をし、その日の気分を伝えたり、時々ヨガで体をほぐしたりと、リアルのサークルタイムをオンラインで再現し、和やかな雰囲気です。
その後9時以降は、1日の時間割を参考に自分のペースで、ビデオレッスンを見たり、グループワークのZoomミーティングに参加しながら、各教科のワークをこなします。学校が終わる15時までに課題を提出し、16時頃先生からのフィードバックをチェックして、1日が終わります。
学習内容と課題の提出方法の例
オンライン学習の例をご紹介します。
学年2クラスの先生が、教科ごとに手分けして作成したビデオレッスン(概ね20分以下)を見て、各自で課題に取り組む。教科毎に、Zoomでペアワークや、グループワークのミーティングをしたり、時々、ライブの授業が行われる。課題の提出方は、手書きのものを写真に撮って送るもの、Google ClassroomのプライベートコメントやGoogle Docに直接タイプして送るもの等、内容によって異なる。
ビデオレッスン(約20〜30分)を見て、各自、与えられた課題を自分のペースで取り組んだ後、4〜5人の小グループに分かれて、先生を交えてZoomで約15分ディスカッション。その後、先生は退出し、引き続き生徒の一人がファシリテイトする形式でグループワークを続ける。
毎週月曜、各専科の先生から、Google Classroomに課題が出され、写真やビデオに撮って金曜日までに提出。音楽は、週に1回Zoomレッスンがあり、課題の提出はなし。
通常の学校時間内は、e-mail、電話、FaceTimeで対応可。保護者も生徒も、直接先生に質問できる。学年2クラスで合計44人。生徒の質問に個別に対応できるよう、先生の電話番号が渡された。担任の先生からは保護者宛に、Google Classroomの機能で、学習の進捗状況のレポートが届く。
休校初日から始まったオンラインの遠隔学習は、最初は学校側も大変そうでしたが、保護者と先生の学期末の面談を早速Zoomで行うなど、積極的につながりを持ち意見交換をしてきました。
家庭でも、自宅の環境整備など何かと戸惑いが多かったものの、息子の学習スペースをリビングルームに確保し、1日のスケジュールのペースがつかめてくると、次第にひとりで学習を進められるようになりました。
初めの頃は、生徒全員がアクセスできないこともありましたが、ようやく最後のクラスメイトが画面に登場し、クラス中がZoomで歓声を送ったシーンは、私まで胸が熱くなりました。スクリーン越しに、先生や友達の顔を見られるのは、子ども達だけでなく、保護者である筆者にとっても心理的なストレスの軽減に、とても効果があったように思います。
長期戦で先生も大変!水曜は休みに
一方、もともと、2週間の見通しで始まったオンライン遠隔学習でしたが、4月に入って長期化が予想され、先生たちが、生徒の個別対応や、レッスンの動画作りでオーバーワークの状態になってしまいました。
そこで、先生の負担を減らすために、4月から、毎週水曜日は、朝のサークルタイムのみ行い、授業や個別対応は行わないことになりました。生徒は、やり残しの課題をキャッチアップをする等、それぞれのペースで学習を進めます。
この、事実上休日化した水曜日には、まもなくボランティアによるZoomのワークショップが行われることになりました。これらのワークショップは、保護者や、ローカルアーティスト、在校生などが主体的に企画し、子ども達は、興味があるものを選んで、参加することができます。こうした協力体制や、自由な動きが、とてもアメリカらしいところです。
他にも、さまざまな仕事に従事するプロフェッショナルから、仕事のことや、そこに至るまでのライフストーリーを聞けるゲストトークも開催されました。息子は、気になる分野のインタビューは、自ら事前にスケジュールをチェック。中でも、コマーシャル/フィルムディレクターのインタビューはとても面白かったそうです。この様に、全米から招かれたゲストとオンラインでつながり、学びを広げる機会もありました。
PBLとオンライン家庭学習で学びを深める
この学校では、もともと、PBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習)で、「テーマに沿って、生徒が主体的にプロジェクトの課題に取りくみながら、学びを深める」教授法を取り入れているのですが、オンライン学習においても、クリエイティブなアプローチで、生徒を飽きさせない工夫がされています。
先生が作ったビデオレッスンを見ながら課題をこなすという形式ではありますが、例えば、オンライン遠隔学習でも、こんな課題に取り組んでいました。
<ELA(English Language Arts)>
テーマ
神話:世界で語り継がれきた神話や伝説についてのビデオを見たり、先生の読み聞かせを聞いたりしながら、神話の構造、書き方を学ぶ。
ライティング
自分の想像から生まれた神話のストーリーをGoogle Docに書き上げ、その神話を題材にして描いた絵表紙と共に、先生に提出。
発表/フィードバック
完成した神話のストーリーを、生徒が自らカメラに向かって読みあげ、ビデオ撮影して提出。先生が、Google Slidesで一覧にして共有。これらのプレゼンテーションの中から、好きなものを3つ選び、要旨をまとめて提出。
このように、ひとつのテーマの学習に、いろいろなスキルを使うようにプロジェクトが組み立てられています。
展覧会のかわりにオンラインアートショー
今年は、学校での展覧会はできませんでしたが、美術の課題で提出した作品の数々は、学校のWEBサイトで紹介され、初の全校オンライン展覧会が開催されました。例えば、「世界の名画を家にあるもので再現する」という課題では、子ども達のユーモアあふれる芸術作品の再現がたくさん展示され、積極的にアートに関わりながら楽しめる、新しい創作の機会になりました。
学校とコミュニティに見守られた休校オンライン学習
今、アメリカはコロナ感染の不安や、人種差別の抗議デモの混乱の中、歴史が大きく動こうとしている真っ只中で、教育現場においては、教育予算の大幅なカットが明らかになり、息子の通う学校も、夏休み明け(8月中旬)の学校再開に向けて、解決するべき問題や、課題は山積みです。現時点では、不透明な部分が多く、おそらく、オンライン学習と学校での学習を併用しながらの分散登校になるだろうとのこと。
そんな激動の中、子ども達は、先生と共に、新たなチャレンジに立ち向かい、オンライン学習を通して、仲間とつながり、学びを深めてきました。先生は、YouTube先生に転身しビデオレッスンの制作や業務に日夜追われ大変そうでしたが、生徒たちはビデオレターをつないで編集し、感謝、激励のメッセージを届けました。また、先生からの依頼で保護者がゲストティーチャーとしてビデオレッスンを発信することも。筆者自身、息子に伴走しながら保護者同士のつながりによって励まされたと感じる瞬間がたくさんあります。振り返って見ると、勉強の内容よりも、こうして学校とコミュニティーに見守られつながりを深めたことに価値を感じています。
ここに書かれた学校の取り組みは、オンライン遠隔学習のごく一部ではありますが、この約3ヶ月を通して子ども達が体験した全ての出来事は、コロナ期を一緒に乗り切った先生や友達との思い出と共に、変化の激しいこれからの時代を生き抜くための大きな力となるでしょう。