学習のオンライン化に今すぐ使える手段はどれ?特徴と用途の一覧マップ〜授業動画にこだわらないで

学校の臨時休業は全国に広がり、長期化の様相です。学校再開後に取り戻せばどうにかなるという見込みでは対応できない状況になりつつあります。学習のオンライン化にいち早く取り組む学校や自治体がある一方で、いったい何ができて何から取り組めば良いかわからないで困っている現場もまだ数多くあるようです。

この記事では、情報伝達のテクノロジーを学習支援のどのような要素に使えるのかを検討できるよう、様々な手段の特徴を整理、分類してご紹介します。

学習のオンライン化というとまず授業動画やリアルタイムオンライン授業をイメージする方が多いかもしれませんが、そこから始めようとする必要はありません。学びの要素は「知識の伝達」だけではなく、特に今の状況下では、子どもの興味や、やる気を引き出し、子どもにあった学習ペースを作り、「自ら学ぶ力をサポート」することが最も必要とされています。

環境が整っていなくても、今学校が持っている手段だけでも小さな一歩を始められるはずですから、ぜひ検討の材料にしてください。

今すぐオンライン学習化に使える手段は?

では、上図の番号に対応させて❶から順に、詳しく見ていきましょう。なお、例えば同じ「ファイル共有」にも公開レベルが複数あり、特徴が異なるということも知っておいてください。例としてあげるサービス名は一例です。

❶公開【1対多】

学習のオンライン化に今すぐ使える手段はどれ?
誰でも見られる公開状態で、一方通行で情報を発信します。オンライン学習に活用価値がないと思いがちですが、提示方法として最も敷居が低く、すぐにでも使えます。プライバシーに配慮した内容にすれば、課題の提示や先生からのメッセージの発信など、イメージ以上に活用価値が高い手段です。情報を受け取る側にとっても、見るだけなので手軽です。

<具体例>

  • ホームページ
    例:学習計画や課題の提示、児童生徒へのメッセージ掲載
  • 個人ブログ
    例:先生が独自に作成したメッセージや学習素材。個人ホームページも同様
  • [noteなど]

  • 動画(公開)
    例:学校や先生からのメッセージ動画、学習用動画を公開
  • [YouTube、Vimeoなど(公開)]

他に、少し手段は異なりますが、地域のTVやラジオの放送局が協力して授業動画や朝の会などを流す取り組みもあります。ネット接続環境がなくともより広く一斉に情報を受け取れるというメリットがあります。

❷ 限定公開

学習のオンライン化に今すぐ使える手段はどれ?
URL(インターネット上のアドレス)を知っている人だけが見られるという情報共有方法です。検索サイトの検索対象にはなりませんが、URLを知った人は誰でもアクセスできます。情報を受け取る側は、会員登録せずにアクセスできるので手軽です。閲覧のためのURLを公開の場に掲載してしまうと、限定公開の意味がありません。メールや特定のグループしか見られない手段でURLを伝えるようにします。

❷-(1)限定公開【1対多】

<具体例>

  • 学校ホームページ(Basic認証)
    例:より限定した範囲に、学習計画や課題の提示、児童生徒へのメッセージ掲載。(Basic認証:ページ側で設定したパスワードを入力すると閲覧できる。共通のパスワードで個人IDではない)
  • 動画(限定公開)
    例:より限定した範囲に学校や先生からのメッセージ動画、学習用動画を公開
    [YouTube、Vimeoなど(限定公開)]
  • フォーム(URL共有)
    例:アンケート形式で回答を集められる。健康観察、家庭の状況調査、課題への回答、投票など
    [Google Forms、MS Formsなど(URL共有)]
  • ファイル共有(URL共有)
    例:自作教材の文書や、音声ファイル、動画ファイルなどを共有
    [Google Drive、Microsoft OneDrive、iCloud、Dropboxなど(URL共有)]

❷-(2)限定公開【多人数相互】

<具体例>

  • グループビデオ通話(URL共有)
    例:朝の会などホームルーム、グループディスカッション、やりとりのある授業。参加者がID登録しなくても使えるタイプ
    [zoomなど]

❸ 個人ID有り

学習のオンライン化に今すぐ使える手段はどれ?
特定のサービスの利用IDを持っている人だけがアクセスできる仕組みを使います。利用者がサービスのIDを所有している必要があるので、学校の場合は学校がサービス利用の契約や準備を整え、全員のユーザーIDを用意して配布するのが一般的です。サービス利用者の内さらに特定のグループのIDだけに公開することも可能です。

❸-(1)個人ID有り【1対1】

メールやメッセンジャーなど日常的によく利用している手段です。非常時や一時的な個別連絡であれば、個人がすでに所有のアカウントでやりとりをすることも考えられます。

<具体例>

  • メール
    例:個別の連絡、相談、サポート
  • チャット
    例:個別の連絡、相談、サポート。即応性が高いコミュニケーション
    [LINE、各種メッセンジャー]
  • ビデオ通話
    例:個別の連絡、相談、サポート、個別支援。リアルタイムにコミュニケーション
    [Google Hangouts、FaceTime、Skype、webex、LINEなど]

❸-(2)個人ID有り【1対多】

特定のID所有者だけに情報を公開したり届けたりします。

<具体例>

  • 一斉メール
    例:学習計画や課題の提示、児童生徒へのメッセージ。他の手段で情報を掲載、共有したことを伝える。一方通行だが受け手の素性が確実な状態で全員に連絡できるので利用価値が高い
  • 動画(IDで閲覧許可)
    例:閲覧者を限定して、学校や先生からのメッセージ動画、学習用動画を公開
  • フォーム(IDで閲覧許可)
    例:閲覧者を限定して、アンケート形式で回答を集められる。健康観察、家庭の状況調査、課題への回答、投票など
    [Google Forms、MS Formsなど(IDで閲覧許可)]
  • ファイル共有(IDで閲覧許可)
    例:閲覧者を限定して、自作教材の文書や、音声ファイル、動画ファイルなどを共有
    [Google Drive、Microsoft OneDrive、iCloud、Dropboxなど(URL共有)]

❸-(3)個人ID有り【多人数相互】

特定のID所有者だけが利用できるようにして、双方向のコミュニケーションに利用します。出来ることの幅が一気に広がり、様々な活用ができます。

<具体例>

  • ファイル共有(IDで編集許可)
    例:閲覧者を限定して、自作教材の文書や、音声ファイル、動画ファイルなどを共有。同じ文書を同時編集して協同で文書作成
    [Google Drive、Microsoft OneDrive、iCloud、Dropboxなど(URL共有)]
  • グループチャット
    例:テキストでの雑談、ディスカッション、意見交換。画像やファイル添付で課題提示、提出
    [Slack、Chatwork、LINEなど]
  • グループビデオ通話(IDで参加)
    例:参加者を限定して、朝の会などホームルーム、グループディスカッション、やりとりのある授業
    [Google Hangouts、FaceTime、Skype、Webex、LINEなど]

❸-(4)個人ID有り【複数機能セット】

個人IDでログインして、課題の提示と提出、ファイル共有、グループチャット、ビデオ会議などさまざまな機能を利用できるグループワーク系のツールです。先生がクラス単位で各個人の進捗やステイタスを確認できるなどの機能も備えられています。一旦導入すればとても便利に使えますが、学校や自治体単位で利用を決定して契約する手間などがかかる可能性が高いので、導入の決定と作業に時間がかかります。サービスによってセットになっている機能や強みが異なります。

<具体例>

  • 教育系対応グループワークツール
    [Google Classroom、Microsoft Teams、Apple Schoolwork、schoolTaktなど]

導入ハードルが高く経験が必要なことは後回しでもいい

以上のように沢山の手段がありますが、各現場にはさまざまな制約があるでしょう。一般的に、プライベートで個人IDが必要な手段の方が導入のハードルが高く、双方向の手段の方が活用に習熟や経験が求められます。下の図に矢印で示しましたので、参考にしてください。たった今持っている手段で、まずは動いて時間を稼ぎながら、オンラインでの情報の出し方に慣れ、一方でハードルが高い方の手段を中長期で導入する準備を進めるのが現実的なのだと思います。

今すぐオンライン学習化に使える手段は?

すでにある良質なコンテンツはどんどん活用する〜学校と先生の存在意義は知識の伝達だけではない

教材を与えるだけ与えたり、時間で縛って強制力で管理するという発想では、学びは成立しません。これはリアルな教室であってもオンラインでも同じことでしょう。「知識の伝達」ばかりが優先され、デジタルでもアナログでも大量の課題が降ってくるだけでは子ども達も家庭もすぐにまわらなくなります。

まずは、先生や学校が組み立てた学習内容を提示したり子ども達が学習に対するモチベーションを維持できるコミュニケーションにぜひ、オンラインの情報伝達手段を使って「自ら学ぶ力をサポート」してください。

「知識の伝達」の質を高めることは、これまで学校も教育産業も注力してきているので、実はすでに良質なリソースがあふれています。日本には学習指導要領があり、それに準拠した教科書があり、対応する教材はアナログ(紙の問題集)、デジタル(動画、アプリ)問わず、有料・無料で多数すでに世の中に出回っています。既存のコンテンツを活用することで「学校の存在意義がなくなる」と怖れる必要は全くありません。先生だからこそ優良なコンテンツを選別でき、年齢にあった適正の学習量と無理のない学習ペースを設計し、子どもの学びをオーガナイズできるのだと思います。ある教材や便利な学習アプリなどは積極的に活用し手間は省き、子どもたちの「自ら学ぶ力をサポート」の方にこそ力をかける時なのだと思います。

家庭に閉じ込められている子ども達に、学校や級友の気配を感じられるつながりを届けられる手段を、学校は持っているはずです。ぜひ、小さな一歩に挑戦してみてください。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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2件のフィードバック

  1. 2020-04-19

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  2. 2020-04-26

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