『ルビィのぼうけん』〜「プログラミング思考」に真正面から取り組んだ絵本
子ども向けプログラミングが注目され、「習いごと」としてのスクールもこの1年で目立って増えてきました。今年4月19日には、文部科学省が小学校でのプログラミング教育必修化を検討するとの発表があり、2020年度からの実施を目指しているとのこと。
さて、とはいえ、プログラミング教育っていったい何をやったらいいのでしょうか。
九九や漢字練習のような基礎練習ではないはず!
Scratchなどの子ども向けプログラミングツールでどんどんプログラムを組んでみること?画面で組んだプログラムでロボットを動かしてみること?どうなのでしょうか。
実際に、自分で興味を持って体当たりでScratchを触っている子どもを見ると、それはそれでいい経験になっているとは感じます。
でも、必修科目として、すべての子どもが、漢字や九九を覚えるように基礎技術として、横並びでScratchでプログラムを作る演習をしているるシーンを想像すると、これは明らかに何か違うよな……という疑問も感じるのです。
プログラマー的なものの考え方って?
プログラマーの友人に意見を求めたらこんなことを言われました。
「大切なのは『プログラミング的なものの考え方』であって、技術や文法を学ぶことはスタートではない。そういう発想で世界を見られることの方が大切。」
うん、そうそう、そういう感じの違和感なんだよ……と思う半面、言っていることが漠然としかわからない。その「プログラミング的なものの考え方」って何なのでしょうか。非プログラマーにとってはそこが一番とらえにくいところ。 それはScratchをいじることとは何がどう違うのでしょうか?
コードや画面の出てこないプログラミングの絵本!?〜『ルビィのぼうけん』
さて、その問いに真正面から取り組んだ、なんと「絵本」が出版されました。
『ルビィのぼうけん こんにちは! プログラミング』(リンダ・リウカス著・鳥井雪訳/翔泳社)
これは、コードもパソコンもロボットもいっさいでてこないプログラミングの「絵本」です。「プログラマー的思考法」の基本的な考え方に注目して、それがどんなものなのかを自然と感じ身につけられるように設計された「絵本」。
前半はルビィという女の子がパパからの手紙をもとにヒントを探しながら5つの宝石を見つける絵本仕立てのストーリー部分。
後半は「自分でやってみよう!」のアクティビティパート。ストーリー中のシーンやキャラクターが登場するクイズのような練習問題が出てきます。ここで「プログラマー的思考法」がアクティビティとして展開されるのです。
例えば
・短い指示の連続でひとつの作業を完了させること
・共通している法則を見つけること
・説明が正しいか間違っているかを判断すること
など、頭の体操のような問題だったりして、「これのどの辺がプログラミング的なの?」と感じるかもしれません。でも大丈夫、問題ごとに大人向けの解説があり、そのアクティビティがプログラミングやコンピューターのどんな特徴を示しているのかを説明してくれます。
「考え方」に注目した意欲作
ベースとなるものの考え方をまず、日常と地続きの頭の中で展開するというのは、最初の一歩としてはとても大切なこと。こんなふうに「プログラマー的思考」に注目して、パソコンから離れて概念的に提示しようとしているところが、本当に、他にはないアプローチです。
前半のストーリー部分は、若干、後半の練習のためのポイントで紡がれている印象がなくもないのですが、これだけ普通の言葉とシーンでプログラミングならではの思考回路を表現しているのはすごいことです。そこを徹底して追求した意欲作。
なんといっても、独特のおしゃれな色使いと淡々とした絵で描かれるルビーの世界は、とにかくとても居心地がよさそう。自分の世界で過ごすのが好きな子どもたちが、すーっと共鳴して入り込んでいく世界観があります。
子どもがひとりで読むというより、親子で読み進めるタイプの絵本なので、ぜひ「プログラミングがよくわからない者同士」、一緒に楽しんでください。
非プログラマーの大人にこそ読んでほしい
そして、むしろ、大人が自分のために読むこともおすすめしたいです。「プログラミング思考」ってなんだろう?」と思ったことのある方にはぴったりです。
学校現場でも、ICT教育に熱心な先生だけではなく、むしろ、「英語の次はプログラミング?!」と頭をかかえて逃げ出したい気持ちの先生方に、自分のための「導入」としておすすめしたいところです。自分が興味をもつきっかけになるだけでなく、これがその先の授業のアイディアや導入のヒントにもつながるはずです。
なんだプログラマー的思考ってそんなこと?と拍子抜けする人もいるかもしれません。こういう視点で世の中を見るのって楽しそう!と、自然にワクワクする人もいるかもしれません。
そんなふうに、最初の興味の糸口を自分の中に持つヒントがこの絵本の中にあるはずです。
その先に進みたくなれば、厳しい(?)技術の習得も試行錯誤ももちろんあるわけですが……。
著者はフィンランドのプログラマー
著者のリンダ・リウカスはフィンランドの出身のプログラマーで、子どもがプログラミングを学ぶ糸口となるような絵本が必要だと感じ、クラウドファンディングのkickstarterで資金を集めたそうです。このあたりもとっても「今」らしくて、プログラマーの世界の文化を垣間見るようです。
ちなみに、主人公の「ルビィ」という名前は、プログラミング言語「Ruby」そのもの。そんな設定ごとプログラマーの世界を楽しんでみてください!
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