GIGAで整備された1人1台デバイス時代の授業スタイルは脱「劇場型」へ

これまでの授業のスタイルは、先生が前で説明をして黒板に書いて誰かが手をあげて発表してそれに応じて話が展開して……というのが一般的でした。1コマの授業時間にわかりやすい起伏がある「劇場型」の展開と呼べるでしょう。表に見える変化を追えばどんな授業だったかがわかります。これがデジタル時代にはどう変化するのでしょうか?

「劇場型」から「地味な」授業展開へ

デジタル時代の授業というのは、実は授業展開自体はけっこう地味になる傾向があります。これは悪い意味ではなく、個別作業が増えるのでスタイルが変化するのです。

例えばプログラミングの授業を取材で見学していると、導入のあとはさっと個別作業がスタートしてあとはずっと個別作業ということもあります。漠然と見ていてもそこで何が置きているかは簡単にはわかりません。

その活動で何を得ているか、とか、どんな試行錯誤をしているか、を見取って記事で書こうと思うと、あるていどの時間、どの子かにはりついてその子のやることじっとみている必要があります。

じっくり画面を眺めて作業手順を追っていれば、うまくいかなくて解決ようとしてまた失敗している様子や、いい感じに工夫して成功している様子や、全く歯が立っていない様子などが見えてきます。この観察、けっこう地味に大変です。

でも、これをしないで「劇場」的に起きる説明と、授業の最後の数名の発表だけをひろったところで、とても表面的になってしまって面白くないし、授業で何を得られたかは伝えられなかったりするのです。

いっけん「地味」な個別の作業時間は必要なものであり、「劇場型」の展開では、説明と正解を聞いて終わりになってしまいます。「地味」な個別の作業時間に個別に起きているドラマに目を向けることが大切です。

見えにくくても活発な意見交換が行われている

最近テーマになるデジタル教科書使ったり、デジタルツールを道具として使いこなした授業も同様です。子どもが画面に集中する時間が多く、手を挙げて発言するという「劇場型」ではない形でコミュニケーションが進むことが多いので、ぱっと絵的にそのシーンを切り取ると、微妙に不健康そうで活発ではないように見えてしまうかもしれません。

でも実際には活発な意見交換が行われているということもあるのです。デジタルツールを使った授業では、児童生徒ひとりひとりが意見を書き込んだものをツールで集約してリアルタイムで公開し、全員が互いの意見を瞬時にざーっと見て、お互いにコメントをつけ合うことができます。フォームから短文で意見や感想をさっと書いて全員が送ったり、設問に答えたり、ノートを撮影して送ったりなど、意見共有の方法は様々です。

挙手して発言をするスタイルでは絶対にできなかった、全員が発言して全員が互いの意見をさっと参照するということがごく短時間のリアルタイムで行えるわけです。

また、グループで模造紙を囲んでマジックで発表を資料を作るというわかりやすい「協業の情景」がなくても、じつは、PC上で文書を共同編集して、活発にコミュニケーションを取りながら資料作成をしているということもあります。

「画面ばかりみていて不健康そう」と感じたとしても、その見た目に左右されずに、その画面の中でどんな世界が展開しているのかに目を向ける必要があるでしょう。

全員が主人公になりうる

「劇場型」の授業は、勘のいい児童生徒がいい球を返せばきれいなストーリーができあがりやすいものです。限られた発言者から期待通りの授業展開につながる発言や「いい気づき」を引き出せたからといって、それはまさに「劇場」的で、他の大勢の児童生徒の理解を促したり心に響くものであるかどうかはわかりません。傍観者でいたければ徹底的にひっそりと控えていられるのもまた「劇場型」の特徴でしょう。

GIGAのひとり1台デバイスを積極的、かつ効果的に使って授業をしている先生からは、「授業中子どもたちが忙しそう」「傍観者でいられなくなり全員が参加している感じ」「全員の意見をきいてあげられるようになった」という感想を聞きます。いっけん「地味」かもしれない授業展開の裏で、「劇場」でなくなったかわりに、全員が静かな主人公になれる可能性があるわけです。

また、デジタルツール経由のスタイルだと、ふだん発言をするタイプではない児童生徒が「こんなにも明確な意見を持っていたのか」と先生が気づいたり、子どもたち同士で知らなかった一面が見えてコミュニケーションが変化したりするということも起きています。

授業を見学したり評価したりする側が、「地味な」展開を否定的に捉えるのではなく、個別の試行錯誤や見えにくいコミュニケーションに注目するというふうに視点を変えていかなければいけないでしょう。

授業のスタイルは先生が先生間で評価される授業研究の評価の方向性に大きく左右されると聞きます。1人1台のデバイスを活用して、今までできなかった情報共有や意見交換、個別の理解や作業のスピードに合った学習が実現しやすくなる時代です。授業の「あるべき姿」ごとアップデートしていくことが大切です。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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1件の返信

  1. 2022-02-12

    […] 捨てられ表に出ることはありません。「積極的な子」と先生で展開しやすいストーリーの見えやすい劇場型の授業には、「消極的な子」というラベルとともにじっとお客さん状態でいる子 […]

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