先生の自由さが生んだ、子どもの創造的なタブレット使い

前回に引きつづき、『JAPET&CEC成果発表会 平成26年度「教育の情報化」推進フォーラム』からの実践ご紹介です。

今回は、ICTツールを使う「風土」に注目したいと思います。

自主的な想像力あふれる使い方

小5のクラスでの取り組み(長岡市立脇野町小学校 水谷徹平教諭発表)です。

総合的な学習の時間の取り組みの一つとして、地域の保育園や養護施設を訪問する際に、テーマに沿ったパフォーマンスをグループ別にする機会がありました。ダンスや合奏のチームもある中、タブレット端末を使ってクレイアニメーションの企画を仕上げたチームがありました。クレイアニメの原理は簡単ですが、なかなか根気のいる作業。ストーリー性のあるものを作り上げるには、計画が重要で時間もかかります。

また、6年生を送る会では、プロジェクションマッピング風に体育館のステージ側全体を階段や壁も含めスクリーン代わりに見立て、映像を投影したシーンがありました。これは、子ども達が作ったプレゼン用ムービーを高解像度のプロジェクターで、広範囲に投影したそうです。音楽との相乗効果でとても派手な演出になりました。

こうした、少し高度なICT機器の使い方による自主的な創作活動が生まれるのは、どういう背景があるのでしょうか。

どんどん使う!自由で勢いある風土

まず印象的だったのは、最初のきっかけだけあげれば、子ども達は自分たちでやり通せる、という先生のお話です。

先生の自由さが生んだ、子どもの創造的なタブレット使い

失敗もするしそれも含めて自分たちで学ぶ過程を見守る姿勢というのは、先生にとっては当然の立ち位置なのかもしれません。ただ、特にタブレット端末のようなICT機器に関しては、導入から日が浅く、壊されては困るし、変な使い方をされたら困るし……と、先生自身が慎重になりがちだと思うのです。

これは、発表の印象から受けた私の想像でしかありませんが、おそらく先生ご自身も興味を持って好きで、どんどんツールを使う、そして、子どもたちにも体当たりでどんどん使わせている。文房具や画材と同レベルに普通の道具としてごちゃっと置いておいて、「じゃんじゃん使って!」「壊れないから大丈夫!」という勢いと風土があるからこそ実現しているのかもしれない、と感じました。

高学年だからこそできる、という側面ももちろんありますが、自由な気風とトライ&エラーを恐れないムード作りが、こうした活動の大きな背景としてあるのではないでしょうか。

普段から極めて普通の表現ツールとしてICT機器が使えるような風土作りというのも、道具として子どもが使いこなすには大切なポイントになりそうです。

また、発表の中で印象的だったのは、様々な資質の子どもたちがいる中で、より多くの子どもが活躍する場が増えた、というものです。

人前で演じたり、体を動かしたりすることが得意な子どももいれば、作ることが得意な子どももいます。表現手段の選択肢が増えた、ということ意味で、タブレット端末の活用は非常に大きな意味を持ちました。

目的が同じ課題でもアプローチを変えるだけで……

同じ水谷教諭の発表でもうひとつご紹介したいのが、「となりの席の友だちのポスターを作る」という取り組みです。

よく、「友達のいいところを見つけよう」という課題がありますが、これをポスター作りという形に落とし込んだもの、と私は解釈しました。

となりの席のクラスメイトのポスターをタブレット端末で作ります。写真を撮り、キャッチコピーを考え、文字の配置や配色を考えレイアウトを決めます。

一回きりではなく席替え毎にやるので、前の人が作ったポスターとは違う特色を出すために、詳しくインタビューをしたり、写真の撮り方を工夫することもあるでしょう。

同じ「いいところを見つける」という目的でも、紙に箇条書きで書き出すという課題にするより、このように「ポスターをつくる」という課題にした方が、より自然に、相手とのコミュニケーションや、表現方法の工夫・熟考を引き出すことができると思うのです。

「作る」ことに気軽さを感じられる

タブレットでの作業は、消したり足したりが簡単なので、その「やり直しのしやすさ」が、作るときの気持ちを軽くしてくれる側面もあります。これが可塑性の高さ。

同じポスター作りでも、写真を大きくプリントして、そのうえにマジックでキャッチコピーを書く作業と比べたら、はるかに気持ちは楽になります。失敗したらすぐに元に戻せて、簡単にいろいろなパターンが試せる。

図工での作品作りという観点では、簡単に後戻りできないことや、計画を立ててから本番の作品を作る、というような手順を学ぶことも必要だと思います。ですが、このように目的が別のところにある課題の場合、作る手順が簡単で気持ちが軽くなることは、取り組む姿勢を引き出すには重要なことでしょう。

全体として、クラス全体のICT機器に対する心の敷居が極めて低く、そのベースに先生の「自由さ」があるような印象を受けた事例でした。

実のところ「風土作り」というのは、簡単に真似できそうで、難しいものです。まずは先生が自分自身の気持ちのデジタルバリアを下げてみる。楽しんで使う。それが一番の近道かもしれません。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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