ICTの活用で子ども達が得られるものは?〜東京学芸大学附属小金井小学校ICT部会の授業実践から
2019年2月2日(土)に、東京学芸大学附属小金井小学校で「第10回KOGANEI授業セミナー」が行われました。各教科で提案授業が行われる中、ICT活用を切り口にした授業が国語と保健で行われ授業協議会が開かれました。どんなことを目指した授業だったのか、ちょっとご紹介しましょう。
国語で「発表」の組み立てをする
テーマ「プログラムの秘密を発表しよう」
担任の鈴木先生が担当した国語の授業は「発表をする」ということについて考えるのがテーマ。すでにこのクラスでは総合的な学習の時間でmicro:bitを使ったプログラミング体験していたため、こんどは、そのmicro:bitで作ったものを紹介をするプレゼンテーションの準備をしました。
まずはプレゼンテーションがどんなものなのかということを体感するために、スティーブ・ジョブスのiPhone発表シーンと、TED talkで日本の小6の子どもが発表しているシーンの動画を見ました。この動画を手掛かりに、プレゼンテーション(=発表)にはどんな要素があるかということを、子ども達が見つけていく時間となりました。
子ども達は授業中1人1台のタブレットPCを使用し、例えば見つけた要素は直接グループチャットツールのスレッドに書き込んでいくなど、普通の発言ツールとして使います。先生はそのスレッドにリアルタイムで目を通して、適宜ピックアップしてより詳しく意見を聞くなどしていました。
この日の授業でまずはプレゼンテーションの構成要素を取り出すところまでを実施しましたが、その先の授業で、類似したものはセット化するなどの分類や整理をし、さらにそれらを順序良くならべて効果的な発表に組み立てていこうという計画です。
背景にはさらに大きなテーマとして、micro:bitで体験したプログラムを組むための思考が、国語での「発表」を論理的に組み立てるための思考とつながることを期待、予測し、検証するという目的もあります。これらは複数の時間からなる授業計画全体を通して、また、いくつかの授業計画を経て確かめていくことになるでしょう。
保健で1年生向けのクイズを作成する
テーマ:「『けがの防止』〜広めよう安全な行動〜」
体育の保健領域の授業は養護教諭の佐藤先生が担当。ここで登場したのがWizeFloorという床に映せるプロジェクターのような機器です。投影した画面を触ると電子黒板のように反応するので、床を足で踏んだり手で触ったりするダイナミックな動きを取り入れたインタラクティブなしかけを作ることができます。
子ども達は、1年生に「けがの防止」について知ってもらうために、クイズを作りました。床に散らばる選択肢から、正解だと思うものをどんどん踏んで選んでくようなスタイルのクイズです。
WizeFloorにはさまざまなテンプレートが用意されていて、専用のアプリから設問と回答を登録するような手順でクイズを作成できます。この日は、これまでの授業で作成したクイズをいくつかのグループが紹介しました。
佐藤先生は、昨年1年間で1244人の子どもたちが保健室でけがの手当てをしていること、けがは減らすことができるけれど、約束を守れずに繰り返しけがをするケースが低学年には多いことなどを実例を示しながら紹介します。高学年にとっては目新しい知識ではない「けがの防止」というテーマを、1年生に伝えるという設定を通して自分ごととして捉え直してもらう工夫です。
ここで担任の鈴木先生が「なぜWizeFloorなの? タブレットで見せるとか他の方法でも良いのでは?」と問いかけると、子どもたちからは、「聞くだけじゃなくてみんなで相談しながらやった方が楽しい」「面白いと覚えやすい」「1年生にタブレットを渡したら喧嘩になったり壊したりしそう」「ひとりずつにタブレットを渡したらひとりで考えてしまう」「手でタッチしたり床で飛んだりする方がいい」などの意見が上がりました。
子ども達はWizeFloorのことを単にもの珍しいという目で見ているわけではなく、新しいインターフェースとしてのメリットをつかんでいるのがわかります。もちろんPowerPointでクイズを作っても良いわけですがWizeFloorだからこそ実現できることがあり、子ども達が、個々のメディアの特性に気づく機会にもなりました。
ICT活用の特徴的な使い方は?
WizeFloorは特別な装置ですが、ひとり1台のPCも授業の中で自然に活用されていました。
国語でも保健でもグループチャットツール(Microsoft Teams)や、フォームなどを子ども達の発言に使いましたが、子ども達は、紙のメモなどを経由せずにダイレクトに意見を入力していました。このように、考えると同時に入力して発信するようなスタイルでPCを使うと、次第に思考と連動したツールになり、タイピングの力も定着しやすいでしょう。
手書きを重視しすぎると、一旦紙へのメモやプリントへの記入をして、送信や共有のためにPCで「清書」をするような使い方になってしまう可能性があります。
このクラスでもいつもチャットばかり使っているわけではありませんし、手書きで文字や文章を書くことが不要という意味では全くありませんが、PCを活用する場合は、思考と連動するようなダイレクトな使い方を意識するのが大切なことだと感じます。
また、基本的に3人1グループで活動するようにしていて、3人でひとつの意見を書き込むよう先生が促すシーンもありました。少なすぎず多すぎずの人数設定にすることで、相互にやり取りが生まれやすい工夫をしています。
ICT活用のインクルーシブな側面も
参観者からの質問にもありましたが、なぜ口頭で発表させずにチャットツールを使うのか、という点について、鈴木先生はそのメリットをいくつかあげました。
(1)人前でしゃべるのが苦手な子どもでも、チャットツールでは雄弁な場合がある。「言ってもしょうがない」と思う子でも「書いてもしょうがない」とは思わない傾向。書くことには抵抗がない子どもたちにICTを使って発言してほしい。しゃべることも重要だが、両方あって良い。
(2)意見を書き留めなくてもログがそのまま残るので、記憶が定着しにくい子や書字が苦手な子にはとても便利。
チャットやフォームに限らず意見収集系のツールでは、全員の意見をもれなく短時間で概観できるというメリットはよく聞きますが、ここであげたような個人の特性に応じられるという側面はなるほどと感じました。この利点はもっと注目されて欲しいところです。
小金井小学校ではICTをインクルーシブ教育に活用することを重視していて、多様な特質を受けとめ、多様な手段を提供し認めるという基本姿勢と視点が感じられました。
授業協議会は、千葉大学附属小学校の小池翔太先生が進行し、放送大学の中川一史教授が講師をしました。中川教授の授業講評で、ふたつの授業のポイントや意図がとてもクリアに参加者に伝わり、鈴木先生と佐藤先生からも、授業だけでは見えなかった子ども達の姿が紹介されました
今回の授業のようにICT機器を取り入れられている小学校は実際にはまだ少なく、小学校でのICT活用は残念ながらスタート地点です。こうした事例が参考にされながら、派手な使い方である必要はないので、子ども達や先生にとっての「普段使い」が広がっていくことを期待したいと思います。