AI・生成AIの負の側面も考えてみよう〜戦争利用と電力消費

生成AIについて、教育分野でも前向きな活用の様子を取材して記事を書くことが増えていて、関心が高まっていることをこの1年ほど実感しています。

一方で、AIや生成AIについて考えるとき、新しい技術の負の側面も知識として知っておく必要があると考えています。
その負の側面を2つ、参考になる記事と共に紹介します。
(無料だと途中までしか読めない記事も含まれています。)

戦争での利用

ひとつは戦争に使われているということです。
こちらの記事では「パランティア・テクノロジーズ」というアメリカの会社が開発した軍事目的のAIシステムをデモを元に解説しています。

戦争を変えるAI、まるでゲーム 次々割り出す標的、悲惨さ増す前線」(朝日新聞)

こちらの動画解説はそのAIシステムデモの画面も出てきます。
【記者が動画解説】まるで戦略TVゲーム AI兵器が変える戦争」(朝日新聞)

攻撃の標的となる対象を特定して、さらに効率の良い攻撃方法の提案もするようなAIシステムで、ChatGPTのような対話型で利用することができます。
同社のAIシステムはウクライナ軍が使用し、同社がイスラエル軍の支援もしていることが報じられています。

また、こちらの記事ではイスラエル軍が開発したAIが攻撃対象を特定して空爆を行っていることが詳しく報じられています。AIの学習データやAIによる特定結果に対して、その妥当性について人の判断が十分に行われないまま攻撃が実行されている実態が報告されていて、ぞっとさせられる内容です。

【調査報道】イスラエル軍の「殺害リスト」は人工知能が生成したものだった」(クーリエ・ジャポン/+972マガジン)

まず、戦闘に使われているという用途については、これが倫理的に許容されることなのかという観点で考える必要があります。国際的なルールや議論の深まりにも注目する必要があるでしょう。同じ技術でも使い方次第で正にも負にもなるということが技術の発展の中で繰り返されてきたことだと思いますが、改めて今も現在進行形でそれが起きていることを知っておくことが大切です。

また、クーリエ・ジャポン/+972マガジンの記事からは、AIの出力と人の判断すべき領域の境界がうやむやになっていることに驚き、そのマヒした感覚に怖さを感じます。AIが出力した情報が妥当なのか、どのように使用するかという判断をするのは、人間が行うべきすべき領域のはずです。でも、すでにそのラインを簡単に越えた使い方が戦闘で人を殺すために使用されている。AIの性質上、学習データが間違っていたり、偏っていたりすればそれが出力にも反映されますし、出力する内容が正しくないこともあります。AIがある結果を出したからといって、そのまま重大な結論に結びつけるような使い方をすることは避けなければいけないはずです。

戦争に使われている例では感情的に「ありえない」と思えるかもしれませんが、例えば日常的に利用するChatGPTが出してくる問いへの回答や、各種生成AIが出力する画像に対しても、AIが出力するものと自分が判断すべき領域の線引きを常にどこかで意識しておくという距離感と自分のフィルターを通すという習慣を持つことが大切だと思います。

膨大な電力を消費する

ふたつ目は、生成AIがその処理に使う消費電力です。
AIがデータを学習する際にも、その学習済みのAIモデルが稼働するのにも、コンピューターが膨大な計算をするので電力が使われています。

こちらの記事では、例えば、「強力なAIモデルを使用して画像を生成するには、スマートフォンをフル充電するのと同じくらいのエネルギーが必要」という研究結果を示しています。

AI画像生成のエネルギー消費量、スマホのフル充電に匹敵」(MIT Technology Review)

こちらの記事では、通常の検索に比べて生成AIの対話の消費電力がどれだけ大きいかを示しています。

AIで電力需要「爆発」予想 ChatGPTに質問、検索の10倍も」(朝日新聞)

また、こちらの記事ではAIモデルの「GPT-3」の学習に消費された電力が原発一基の1時間分の電力量を上回ると算出した研究結果を紹介しています。
AIが奪うのは仕事ではなく電力?生成AIのエネルギー事情」(NTT東日本BizDrive)

それぞれの記事で、用途に応じてより軽く消費電力の小さいAIモデルを選ぶという選択や、AIの計算に特化した半導体の開発が進んでいることなど、電力消費を減らす視点や対策についても解説されています。

生成AIの驚くべき機能が華やかに取り上げられる裏では、それを計算するコンピューターの稼働と大量の電力消費という課題があるということも同時に知っておく必要があるでしょう。CO2排出の削減を目指す世の中で、CO2排出を加速する要因になっているあるわけです。

今後ますますAIは日常的になり、機能としてさまざまなツールや機器に組み込まれていくことは止まらない流れだと思います。

新しい技術を手にしたときに、いろいろな側面から見て、答えは出なくても意見を交わすこと、AIの技術的なしくみにも少し興味を持って、自分はどういう立ち位置や距離感を持って使うのかということを意識することが大切です。教育現場でも家庭でもAIや生成AIが話題に上ることが多いと思いますが、そんなときにはこうした負の側面についても話題にしてみてはどうでしょうか。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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