3つのキーワードで新学習指導要領案を見る!〜「学びの質」に大きくシフトして必要になるものは?
およそ10年ごとに改訂されてきた学習指導要領ですが、現在、次期学習指導要領案が公開されパブリックコメントを受け付けています。小学校で2020年から全面実施予定のもので、新指導要領案の全文を読むことができます。
話題性としては、プログラミング教育はどうなった?や、外国語が5、6年生で「教科」になることなど具体的な内容が注目されていますが、ベースの部分の考え方がどう変わったのかということを知っておくのは大切です。
改訂のポイントを、中央教育審議会の答申(幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号))と、現在公開されている新指導要領案を元に、ご紹介したいと思います。
「社会に開かれた学習指導要領」
まず押さえておきたいのは、新学習指導要領は、変化する社会の中で学校が社会と連携・協働する「社会に開かれた教育課程」だということです。
実際の新学習指導要領案の前文では次のように表現されています。
(新学習指導要領案/p2前文より引用)
学校の教育が学校の中だけに閉じたものにならないようにする、というこの方向性は、指導要領全体で貫かれています。
「学びの地図」〜「何を教えるか」から「何ができるようになるか」へ
答申では、学習指導要領が「学びの地図」として、「子供たちが身に付けるべき資質・能力や 学ぶべき内容などの全体像を分かりやすく見渡せる」こと、また、「教育関係者間が共有」したり「家庭や地域、社会の関係者が幅広く活用」するような役割を果たすことが期待されている、としています。
一方、これまでの学習指導要領は「教員が何を教えるか」ということが中心に組み立てられていて、「何ができるようになるか」という観点が足りていないと指摘します。
(答申p20より引用)
「学びの地図」として機能させるには、先生が何を教えるか、だけではなく、学習する側の子供の視点に立つことが必要です。ここが大きく変わります。
「何ができるようになるのか」という観点で、育成を目指す資質・能力を整理し、それを育成するために「何を学ぶか」指導内容を検討。さらにその内容を「どのように学ぶか」を構成し、その際は「子供一人一人の発達をどのように支援するか」を重視する。「何が身に付いたか」を評価で見取り「実施するために何が必要か」を併せて検討する。
以上の流れで、新学習指導要領の枠組み自体を見直し、総則も抜本的に組み替えることを答申では求めています。
- 「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)
- 「何を学ぶか」(教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成)
- 「どのように学ぶか」(各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実)
- 「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(子供の発達を踏まえた指導)
- 「何が身に付いたか」(学習評価の充実)
- 「実施するために何が必要か」(学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)
(答申p21より引用)
実際の新指導要領案の総則で、この6つの通りに章立てがされたわけではありませんが、基本的な考え方が共有されるよう大幅に記述が増えています。現行の学習指導要領が総則6ページなのに対し、新学習指導要領案では、新たにできた前文2ページ、総則に11ページ、合計13ページが使われています。
このように、学習指導要領のあり方自体が変わるわけです。
では、もう一歩具体的に、3つのキーワードを手掛かりに改訂のポイントを見てみましょう。
1.「資質・能力」
「何ができるようになるのか」という観点で「資質・能力」示すといっても、具体的にどんなことなのでしょうか?
答申では「育成を目指す資質・ 能力」として3つの柱が整理されました。
「知識及び技能」「思考力,判断力,表現力等」「学びに向かう力,人間性等」です。
新指導要領案では以下の表現で記載されています。
- 「知識及び技能が習得されるようにすること。」
- 「思考力,判断力,表現力等を育成すること。」
- 「学びに向かう力,人間性等を涵養すること。」
(新学習指導要領案/p4総則より引用)
教科の目標や内容は、この3つの柱に基づいて再整理がされることになり、新指導要領では「資質・能力」という言葉が繰り返し出てきます。
2.「カリキュラム・マネジメント」
学習指導要領に合わせて各学校が教育内容を組み立てていくわけですが、答申では、「学習指導要領等に基づき教育課程を編成し、それを実施・評価し改善していく」ことを「カリキュラム・マネジメント」と呼び、重視しています。「学校教育の改善・ 充実の好循環を生み出す」というわけです。
答申では、具体的に、教科横断的な視点、子供や地域の現状にあわせて改善し続けること、外部の資源を効果的に活用すること、の3つの側面で「カリキュラム・マネジメント」を捉えています。
- 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
- 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
- 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
(答申p23-24より引用)
新指導要領案でも、「カリキュラム・マネジメント」というカタカナ言葉を使い、同様の内容を文章で表現しています。
3.「主体的・対話的で深い学び」(=「アクティブ・ラーニング」の視点)
教育に関わる方ならお馴染みの言葉になった「アクティブ・ラーニング」。これは「どのように学ぶか」の部分で重視されています。
答申では、「質の高い学びを実現し、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにする」ことができるよう、「授業の工夫・改善を重ねていくこと」としています。「形式的に対話型を取り入れ」ることや、「特定の指導の型」を指しているのではなく、「新たに時間を確保しなければできないものではな」い、と説明しています。
具体的に、「主体的・対話的で深い学び」を実現するには、どんな授業改善をしていったらよいのでしょうか。答申では次の3つの視点を示しています。
- 「主体的な学び」
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
- 「対話的な学び」
子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
- 「深い学び」
習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
(以上、枠内答申p49-50引用)
新指導要領案では、「アクティブ・ラーニング」というカタカナ語こそ使われてはいませんが、総則で「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」として、上記の3つの視点が文章で表現されています。また、教科ごとの記載の各所で「主体的・対話的で深い学びの実現を……」という表現が出てきます。
3つのキーワードを図示するとこうなる
これら3つのキーワード、「資質・能力」「カリキュラム・マネジメント」「主体的・対話的で深い学び=「アクティブ・ラーニング」)が盛り込まれた解説図が答申の補足資料の中にあるので、ご紹介します。
上記は公開資料を画面キャプチャーした画像です。元資料をご参照ください。(元資料「 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申) 補足資料」の6ページ)
「学びの質」にシフト
こうして概観すると、全体として、「学びの質」が重視されていることがわかります。
学校で先生の一方向の講義を聞き、記憶力重視のテストで満点を取るような教育とは、全く違う像がここにはあります。学校のカリキュラムもPDCA的にバージョンアップしていこうとわざわざ言うくらいですから、このままの姿が本当に実現すれば、非常に生き生きとした学びが教室に生まれることになりそうです。
一方向の授業ではなく、インタラクティブな学びの場を作り上げたいと思っている先生や、個別の事情に配慮した学びの場を創り出したいと考えている先生には、指導要領自体がこうなってくれることは大きな追い風になるはずです。
先生の負担増!少人数スタイルや先生の増員が確実に必要では?
ただし、これを本当に実現するには、先生や学校の創意工夫がより一層必要になるのは確実です。また、質を高めるためには子供達の個々の違いにどう対応していかということも非常に重要でしょう。
改訂でも「児童の発達の支援」は重視されました。「児童の発達を支える指導」を充実させるために「児童や学校の実態」「学習内容の習熟の程度」「児童の興味・関心」に応じて学習できる工夫が求められています。
「特別な配慮を必要とする児童」への指導としては、特別支援学級や通級の指導についてより具体的な像が示されました。「日本語の習得に困難のある児童」にも言及しています。
学びの「質」を高めるためには、全ての子供に対して、一人一人の学びを充実させるために、少人数指導や現場での個別の対応が必要になるはずです。
現状の児童数と教員数でとても実現できるとは思えません。教員の配置やクラス編成などのルールが同時に十分な形に変わっていく必要性を強く感じます。
小学校で、習熟度の違う40人(小1は35人)までの児童を相手にひとりで授業をすすめる先生の状況は、保護者の立場で見ていても単純に限界を感じます。今回の改訂内容に期待したくなる反面、現在の態勢ではそれが実現させられる状況でないのは明らかです。
答申でも「必要な教職員定数の拡充を図ることが求められる」としている箇所(答申p67)があり、この注では、「次世代の学校指導体制の在り方について(最終まとめ)」で教員の配置に関する提言が行われたことが説明されています。先生の質だけに目を向けて解決しようとするのではなく、ぜひ、教員の人数やクラスの児童数などの枠組みが見直されることを期待します。
プログラミングはどうなった?
今回の改訂の方向性を見てみると、プログラミング教育とものすごく親和性が高い気がしませんか?
さて、新指導要領案では、話題になったプログラミング学習はどう扱われているのでしょうか?それについて次回の記事で書いてみたいと思います。
続編「自由度の高さを前向きにとらえる!〜新学習指導要領案でのプログラミングの位置付けを検証」を公開しました(2017/3/19公開)。
新学習指導要領案
幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(PDF直接リンク/文中「答申」と称した資料はこの資料です)
2017/2/6角川アスキー総合研究所主催セミナー「ついに見えてきた2020年の学校でのプログラミング教育」公演内容
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