マルチモードが意外な力を発揮!〜マインクラフトを学びに生かす「MCEdu2016」レポート

今回は、8月21日(土)、22日(日)に開催されたMCEdu2016についてレポートします。子ども達から大人まで人気の「マインクラフト」をどう学びに生かすか、がテーマのこちらのイベント、早稲田大学西早稲田キャンパスを会場に、カンファレンスや多数のワークショップ、ブース展示などが行われました。

「学び」との接点には色々なアプローチがある

一言で「マイクラを学習に」と言っても、いくつものアプローチが混ざり合っています。カンファレンス講演の一部、パネルディスカッション、LTを通して出てきたストーリーを整理すると、以下に分類できます。

(1)マイクラを別の学びのためのツール・プラットフォームとして利用する
(2)自発的にマイクラをやる意思をリアルな他の学びへの導入・きっかけとする
(3)マイクラをやることで「プログラミング」を学んだり「課題解決能力」がつく
(4)ゲームならではの楽しさ、報酬システム、中毒性等が、学習とつながるとプラスに働く可能性がある。

マインクラフトのゲームとしての多様な特徴が、色々なアプローチを可能にしているのでしょう。

ワークショップの意外な結果

今回、ふたつの異なるワークショップを見学しました。ひとつは、「ちゃんと学ぶ完全再現講座-みんなで作る!めざせ完全再現」(今井三太郎氏、ハヤシ氏)。もうひとつは、「マイクラで学校の授業!マイクラが創る新しい『学び』を体験しよう!」(小金井市立前原小学校松田孝校長他)です。どちらも教育板マインクラフトMinecraftEduを使ったもの。

どちらかというと「完全再現講座」の方は、ひと通り説明したら「さぁやってみて」とやらせてみてしまうタイプ、「マイクラで学校の授業!」の方は学びの組み立てをしてある進行でした。一見、後者の方が学び合いがスムーズに生まれそうですが、意外にも、前者の方が生き生きとした共同作業が生まれるという、非常に面白い結果となりました。

マルチモードで一緒にやるしかない!に追い込まれてみると

「ちゃんと学ぶ完全再現講座-みんなで作る!めざせ完全再現」では、会場の早稲田大学にちなんで大隈講堂を再現するというお題が出ました。プロの技や再現構築のコツを解説した後、4名前後のグループでひとつの講堂を完成させます。

マルチモードで、グループごとにひとつのワールドで作業しますが、簡単に協力し合えるかというというとなかなかハードルが高い。年齢もコミュニケーション能力もグループによってバラバラです。

決して活発な言葉のコミュニケーションをしているわけではなさそうなのに、物静かにどんどん分担して作っていくチームもあれば、年齢のせいかコミュニケーションがなかなかうまくいっていないチームも。

途中で建築状態をレビューした時には、かなり建築の進行にも差があり、これはどうにもならないチームもあるかな?と微笑ましく見守りましたが、時間の経過とともにどうにか共同作業が成立し始めます。レビュー時に土台だけだったチームも、最後にはそれらしい形に組み上がっていきました。

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仮にコミュニケーションが得意でないとしても、マルチモードで同じワールドに放り込まれてしまうと、一緒に作るために何らかのやり取りをせざるをえません。作る素材を選ぶために意思統一も必要だし、「そこ壊さないで!」「俺ここ作るから!」など、言葉を交わさないと進まない。このマルチモードでひとつの建造物を作るというプロジェクトは、「コミュニケーションを発生させざるをえない」状況を作ったのだな、というところが大きな発見でした。

講師の声かけなどのフォローの力はもちろんありますが、その状況に放り込むだけでも共同作業が成立する、というところにとても面白さを感じました。最後にチームごとの作品を順に皆で見ながら講師からのレビューがありました。参加した息子は「自分はこの部分を作った」という満足感が持てているようでした。

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グループごとにいろいろな大隈講堂ができてよく頑張りました!

学びの意図と組み立てはわかるのだけれど……

一方「マイクラで学校の授業!マイクラが創る新しい『学び』を体験しよう!」の方は、テーマに沿って知識を得てオフラインで考えてから、自分でマイクラで作ってみる、という流れ。

社会分野では、沖縄の家にどんな特徴があるかをGoogle Earthでチェックして学び、先生が作った「どこかが沖縄らしくない家」を沖縄の家の特徴に沿ってリフォームします。保健体育分野では「危険な場所」の特徴を学び、先生が作った「危険なところがある公園」をより安全に改造する、という内容でした。

オフラインで出た意見を共有する時間もあり、授業の意図は非常によくわかりましたが、子どもにとっては若干「オンラインお預け時間」が長かったかもしれません。そして実際にリフォームや改造作業をする段階では、シングルモードで個人作業となったため、一気に解き放たれ各自が画面に黙々と向かうことになり、子ども同士のコミュニケーションが生まれにくい状態でした。

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参加者の作品の発表やレビューがなく、各自がどんなリフォームや改造をしたかを見ることはできなかったので、確認や振り返りの時間が取れると理想的です。終了後、参加していた息子にどこを工夫したか聞いてみると、課題の意図とは関係なく自分で好き勝手にいじっただけ、という状況(苦笑……)。もちろん課題の意図に沿って作業できた参加者もいると思いますが、自由に触っていただけの子も多い印象で、「ゲーム的な楽しさ」に抑制がきかず、望ましくない方向にその特徴が出てしまうケースも必ず起こることがわかりました。個人作業で閉じた状態で終わるのではなく、発表や共有のステップを作ることは、そんな意味でも大切でしょう。

たまたまこの二つのワークショップは「テーマに沿った建築をする/アレンジする」という点で似ていたのですが、マルチモード作業とシングルモード作業で大きな違いが出たのが発見でした。結果的に子ども達の意外な力を引き出したのは、マルチモードの方でした。

メニュー選択、ログインだけでも大混乱。セッティングは最重要!

今回、「マイクラで学校の授業!」の方では、マイクラにログインするために、最初に子ども達自身に、IPアドレスや任意のユーザー名をタイプさせるシーンがありました。この程度でも小学生には難しい作業です。30人程はいたので、全員がログインできるのを確認するだけで20分近く費やすことになりました。これは事前に運営側でセッティングしておいた方がよかったでしょう。

小学生だと、簡単なメニューから一つを選ぶだけでも、全員に等しくやらせるのは大変なことです。複数のアプリケーションやメニューの行き来をしなくて済む内容にするか、子ども数名にひとりのTAが張り付いて随時チェックするような体制をとらないとスムーズに進めるのは難しそうです。

機器を使った学びの現場はセッティングが命で、ここでもたつくと、授業の流れが簡単に止まって子ども達の理解や気持ちに影響を与えてしまうのが目に見えてわかりました。実際に学校現場でPCやタブレットを使う授業をするときは、このあたりの準備や人員体制が非常に重要になってくるでしょうから、さぞ先生方も苦労されているだろうと感じます。

どこか初心者には分かりにくく、入って行きづらいマインクラフト独特の雰囲気が「マイクラらしさ」でもあると思うのですが、学習の場でツールとして使うには、少し工夫が必要かもしれません。

また、一旦ゲームの世界に入ったら、オフラインで指示される「ルール」は子ども達に簡単に無視される、というのも体感しました。設定上「できない」状態にしておくことも、大勢を対象にするときは重要ですね。

ゲームである「マインクラフト」と学びの接点を探すいろいろな試みをがされた、という印象のイベントでした。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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1件の返信

  1. 2016-08-30

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