仕事と教育をダイレクトに結びつけたら見えること〜Microsoft副社長講演からの気づき(ICT CONNECT 21イベント)

4月11日(火)、ICT CONNECT 21主催のイベント「プログラミング教育の世界での取り組み」が開催されました。Microsoftの副社長(教育部門担当)のAnthony Salcito(アンソニー サルシト) 氏の講演は明快で、日本でプログラミング教育を考える時のヒントが随所にありました。

仕事と教育をダイレクトに結びつけたら見えること〜Microsoft副社長講演からの気づき(ICT CONNECT 21イベント)

仕事の質がかわったのだから教育も変わるのは当然

Salcito氏の発言で非常にクリアだったのは、時代が変わり仕事の質が変わったのだから、教育が変化するのは当然、というスタンスです。

必要な人材と実際の人材の、能力にギャップが出ている現状に、教育で対処することは必須で、これができるかどうかはチャンスでありリスクだ、と言います。そして、経済の未来が教育に依存している、ということを明快に指摘しました。

経済/仕事と教育をダイレクトに結びつける視点は痛快で新鮮な印象すら受けました。

日本でも同じようなことは言っているはずなのですが、どこかもっと抽象的で、「第4次産業革命でこれからの時代に求められる人材は……」と始まった時に、そこに具体的な人材像が思い浮かびにくかったり、「なくなっちゃう職業が多いらしいよ」「AIに仕事を取られるんじゃない?」「プログラミングができるとイイらしいよ」という局所的な話にいきがちです。また、教育はどこか純粋な領域で仕事や経済と結びつけることが躊躇されるような側面もまだあるような気もします。

漠然としがちな人材像を、Salcito氏はとても具体的に示します。

例えば、Microsoftに入ってくるプログラマーは、C#やVisual Studio、JavaScriptなど既に知っているわけですが、その知識だけで何かを生み出せるわけではない。知識だけが重要なのではなく、どうやってアイディアをシェアして、どうやって他の大勢の開発メンバーと連携(collaborate)するか、をわかっていなければいけない。そして制約のある中でいかに問題解決をしていけるかが重要だ、と非常にクリアに説明しました。

誰かが地下室にこもってプログラムを打ち込んでプロダクトが出来上がるわけではないんだよ、というわけです。

こういうことを平易な言葉で具体的な現場感で説明できることは、とても説得力があると感じました。これならば、なぜ従来型の知識偏重の学習ではダメなのか、が、とても自然に理解できると思います。問題解決能力というのも、答えのある問題に知識で答えるということではなく、次々に現れる問題に対処できる能力、と捉えた方がいいでしょう。

もっと広く、仕事の質がどう変化しているのかがスライドで示されたので、こちらもご紹介しておきます。

仕事と教育をダイレクトに結びつけたら見えること〜Microsoft副社長講演からの気づき(ICT CONNECT 21イベント)

撮影が不鮮明だったため、ICT toolboxで文字をタイプして作成

製造業中心の時代とは違う、組織や仕事の進め方、仕事の質、をより具体的に認識して、危機感を持たなければいけないということでしょう。

教育の現場で大切なこと

Salcito氏は、一般的に陥りやすい問題として、学びのミッションを設定しないことをあげていました。なんでプログラミングを学ぶの?ということを、子どもにも先生にも、保護者に対してもクリアにする必要があるのという指摘です。

このミッション設定とも関連しますが、
The skills are far beyound computers.
という表現が印象的でした。

コンピューターを使えるようになること、コーディングをできるようになることそのものが目的ではなく、目指すスキルはもっと先にある、別次元にある、というわけです。

何年生でどのプログラミング言語をどのツールで学ぶのがいい、とかそういうことではなく、例えば基本的なデジタルリテラシーやプライバシーを守ることについての学びなどの基本的な知識、自分のアイディアを形にする手法や、実際の社会の問題を解決する方法を考えたり、身の回りの物事から法則性を見つけたり、といったリアルな世界での思考、それらを含めたひと続きの学びの流れの中に、プログラミングの学びも位置している、と考えるとわかりやすいでしょう。

今、新学習指導要領でのプログラミング学習が注目されるているため、つい、視点が局所的で近視眼的になりやすいのですが、学びの目的をクリアに設定して、学びのコンテクストを考えるということを改めて意識する必要がありそうです。

プログラミングを学べるツールもプログラミング的な手法で物作りができるツールもいろいろありますが、ミッションを設定して、学びの流れを組み立てれば、自ずとどんなツールを選んだらよいかは決まってくる、ということでしょう。逆に、もともとの教科の学びの中にはミッションがあるわけですから、どんなコンピューター系ツールやプログラミングが活用できそうかという風に関連づけていくことでもよいかもしれません。

もっと世界は動いている

例えば、今、データはは「New Oil」と言われているくらいで、データアナリストなんてプログラマーの比じゃなく求められているでしょ、ということにも触れ、プログラミング(コーディング)云々と狭いところで悩んでいる場合ではない、ということを言われているような気がしました。

AIについても、何かと注目されるボットだけではなくて、既に身の回りで普通に使っていますよね、という例が示されました。例えばウェブ上の検索結果の出し方や、OneNoteなどのアプリケーションに組み込まれている機能などにもAIが使われています。また、ビデオを音声認識や表情認識をもとにデータ化してビデオの内容を検索できるような仕組みも紹介されました。

使う側としては、「新しい機能」というくらいにしか思っていないものが、AIで支えられていると気づかされます。

新型テレビとか高機能炊飯器とか新しいモノができて世に出ることが新しい技術なのではなくて、今使っているサービスやモノの機能がさらっとバージョンアップしていつの間にか使っている、使いながら更新されていることそのものが、新しい技術なのだ、ということに、もう少し私たちは敏感になる必要があるでしょう。製造業の時代じゃない、というのは、そういうことなのだと思います。

教育の現場からだけで「これからの世の中にはこんな人材育成が……」と考えるのはどこか観念的になりやすいものです。
日本でも、ダイレクトに仕事とお金が動いている現場から、「第4次産業革命だから……」といったぼんやりとした言葉ではなく、今まさに自分たちの現場では、こういう人材を必要としている!こういう力を持って社会に出てきて欲しい!というもっとシンプルかつ具体的なビジョンが出てきていいいのではないかという気がしました

そういう具体像を描け切れていないのが、今一番問題なのではないか、と考えさせられる時間でした。

狩野 さやか

株式会社Studio947のライター、ウェブデザイナー。技術書籍の他、学校のICT活用やプログラミング教育に関する記事を多数執筆している。著書に「デジタル世界の歩き方」(ほるぷ出版)、「ひらめき!プログラミングワールド」(小学館)、「見た目にこだわるJimdo入門」(技術評論社)ほか。翻訳・解説に「お話でわかるプログラミング」シリーズ(ほるぷ出版)。

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